Ⅱ 視察報告

3.「対馬野生生物保護センター」

(1) 対応者

対馬野生生物保護センター01.jpg 〇環境省対馬自然保護官事務所
  主席自然保護官  佐藤 大樹 氏

(2) 「対馬野生生物保護センター」の概要

 「対馬野生生物保護センター」は、ツシマヤマネコなど絶滅のおそれのある野生生物の生態や現状について解説し、野生生物保護への理解や関心を深めるための普及啓発活動や、希少な野生生物の保護増殖事業、調査研究業務を総合的に実施するための拠点施設として設置されました。

(3) 「対馬野生生物保護センター」の活動

対馬野生生物保護センター02.jpg  (同センターホームページ参照)
①名称
 「対馬野生生物保護センター」は、ツシマヤマネコの保護、飼育を行っていることから、通称「ヤマネコセンター」と呼ばれ、対馬市民になじみの深い施設となっています。
②センターの〝目玉〟ツシマヤマネコ
 対馬市上県町は対馬島の最北西に位置し、韓国との距離は海を隔ててわずか49.5kmの距離です。このような地理的条件から大陸との関係が深く、生物相や文化遺産もその影響を受けていると考えられています。

ツシマヤマネコ01.jpg ツシマヤマネコも、約10万年前に、当時陸続きだった大陸から渡ってきたと考えられ、ベンガルヤマネコの亜種とされています。日本では対馬にのみ分布しており、1971年に国の天然記念物、2004年には国内希少野生動植物種に指定されています。2010~2012年にかけて実施された調査では、全島に約70~100頭しか生息していないとされ、絶滅の恐れが最も高い「絶滅危惧IA類 (CR)」(環境省レッドリスト)とされています。

③施設の機能
ア)市民への啓発活動
 訪者向けに様々な展示がなされています。
展示室では、ツシマヤマネコについてパネルや映像で詳しく解説しています。また、ツシマヤマネコが利用する代表的な3つの自然環境をジオラマにより再現しています(レクチャールームでは3本の映像ソフトを用意し、希望者へ随時上映しています)。
 また、ツシマヤマネコの問題を身近に感じてもらうために、2003年12月より、野生復帰が困難なツシマヤマネコを一般に公開されています。

イ) ツシマヤマネコの情報収集・公開
 ツシマヤマネコの生息核心地域にあり、ツシマヤマネコを中心に、対馬の野生生物についての情報収集・公開を行っています。またツシマヤマネコの保護増殖事業の拠点施設として機能しています。

④センターの調査・研究活動
ア) 生息状況調査
 ツシマヤマネコの現在の生態、個体数、生息密度等を推定するため、痕跡調査や自動カメラの設置等を行い、生息状況の調査を行っています。

イ)保護増殖事業
 ツシマヤマネコ等の傷病個体の保護、検査を行い、野生復帰可能な個体についてはリハビリテーションを行っています。また、動物園と協力してツシマヤマネコの人工繁殖に取り組んでいます。

ウ)普及啓発活動
 季刊誌「とらやまの森」を発行するとともに、対馬の自然を紹介するホームページにより積極的に情報発信したり、ツシマヤマネコの交通事故防止キャンペーン等を実施しています。また、行政機関等の視察、学校等団体の遠足、総合学習などの要請に応じて、解説やレクチャー等を行うとともに、自然観察会の開催や、ツシマヤマネコと共存できる地域社会づくりを行うため住民との座談会を行っています。また、ツシマヤマネコの交通事故防止キャンペーン等を実施しています。

⑤まとめ
 センターの魅力、そして設置目的の核心は、なんといっても〝ツシマヤマネコ〟であり、来訪者はツシマヤマネコ見たさで来館されるといっても間違いありません。しかし、そのツシマヤマネコがいま、絶滅の危機に瀕しています。

 人間の生命・生活活動により、自然多いといわれる対馬市でも開発が進み、ツシマヤマネコの棲む生息域は年々減少しています。

 更に、道路網の整備により、毎年、車に敷かれて死ぬツシマヤマネコは10頭ほどもいるということです。全体の生息数が100頭足らずということで、毎年10頭ほどが自動車事故で死んでいってるということは、まさに、ごく近い将来、ツシマヤマネコの絶滅が迫っているということです。

 佐藤保護官が指摘された「ツシマヤマネコだけを守るということではなく、ツシマヤマネコが生息できる自然環境を守るということは、つきるところ人間を守ることにもつながる。」という言葉は、私たち現代社会に生きる者への警鐘、警告、予言、提言でもあるように思えました。

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