Ⅱ.視察報告
1.9月2日:「秋田県立国際教養大学」
大学ホームページより(1)視察目的
最初の視察先は「秋田県立国際教養大学」でした。
福岡県では、かつて直営の県立大学が3校ありましたが、現在は、いずれも「公立大学法人」となり、独立した教育機関となっています。
このうち、「公立大学法人 福岡女子大」では、2011年4月に「国際文理学部」が開設され、国際化、多様化する社会で幅広く活躍できる女性リーダーの育成に取り組むなど、大学の国際化が進められています。
このようなことから、本県「公立大学法人」の国際化を進める上でも、公立大学の国際化に取り組んでいる先進県、先進事例を視察すべく「秋田県立国際教養大学」を訪れました。
(2)現地対応者
- 大学国際センター長
- 中津 将樹 氏
- 大学事務局長
- 小野 正則 氏
- 大学職員2名
(3) 「秋田県立国際教養大学」の概要
①同大学の所在地は秋田市雄和椿川字奥椿岱となっており、「秋田空港」から5分程度のところにあります。
学校は広々とした敷地であり、自然に囲まれ、周辺の森林と調和した静謐な環境のキャンパスとなっています。周りには商店も、ショッピングモールも、コンビニもなく、生徒は勉強に打ち込める環境といえます。
こうした学風、教育プログラム、カリキュラム、教育環境などから、近年では他県、特に首都圏からの受験者が増え、2015年春の新1年生は首都圏から来ている学生が半数以上を占めるています。同大学は2004年4月に開学され、今年12年目を迎えています。
②同大学の開学理念は「学生に国際教養−インタナショナル・リベラルアーツを授け、グローバル社会で活躍する人材に育てることを設立の理念」(同大学HPより)とし、「国際教養(ILA)International Liberal Arts)という新しい教学理念を掲げ、英語をはじめ外国語の卓越したコミュニケーション能力と豊かな教養、グローバルな視野を伴った専門知識を身に付けた実践力のある人材を養成し、国際社会と地域社会に貢献することを使命とする」としています。
大学が「求める学生像」としては、
- 学習意欲が強く、鋭い問題意識をもつ学生
- 国際社会を舞台に活躍できるような実践的な外国語能力(特に英語)と、幅広い教養の修得を志す学生
- 世界の多様な文化、言語、歴史、社会、そして経済や環境などの国際関係について、強い関心と探究心をもつ学生
とされており、自立心の強い、世界中で活躍できる社会人を育成することを目的としています。
③2014年10月には、文部科学省による「スーパーグローバル大学創生支援事業」を受け(全国で37大学)、徹底した大学改革と国際化の進められることになりました。
「スーパーグローバル大学創生支援事業」では、世界ランキング100位以内を目指すタイプAの大学(総合大学)として「東京大学」や「京都大学」、「早稲田大学」など国内13校が選ばれ、グローバル化をけん引するタイプBの大学として「秋田県立国際教養大学」、「国際基督教大学」など24大学が選ばれています。
(4) 「秋田県立国際教養大学」のプログラムの特徴
①同大学の特徴の一つは、全ての授業は英語で行われます。
特に英語力の向上に力を入れており、在学中に「教職課程」をとらせ、卒業時までに「高校教諭1種免許(英語)」を取得させることに努めています。
②もうひとつは、原則として3年生のときに全員が留学することが義務付られており、留学先の学生と一緒に授業を受け、単位を取得しなければなりません。
しかし、留学するための条件もあり、TOEFL550以上、成績評価平均点は2.50以上でないと留学できず、留学しても卒業できないことから、学生は一所懸命に勉強しなければなりません。遊びや、バイトで時間をつぶす余裕はないとのことです。
(5)キャンパス、キャンパスライフ
①同大学では、200人ほどの留学生が学んでおり、大学HPでは「同大学は世界の縮図です。授業はもちろん、寮や学生宿舎で留学生や他の学生とルームメイトになったり、クラブ・サークル活動でスポーツや文化活動を楽しんだり、授業が終わった後の雑談でさえ、様々な文化を体験できる国際交流の舞台となります。
また、ほぼすべての都道府県から学生が集まっているため、国境を越えた異文化体験に加えて、日本国内の多彩な文化にも触れることができます。」と謳っています。
②校内の全ての建物は窓が広く取られており、陽光が差し込み、外の樹木の緑、移ろいゆく季節を感じ取れる設計となっています。また、校舎は県内産の材木を多用しており、木の温かみを感じるとともに、自然と一体となった、親しみ、安らぎを感じる造りでした。
③在学中は、まさに英語漬けの日々というだけあって、英語を学ぶ環境はずば抜けていました。
「学習達成センター」、「言語異文化学習センター」、「能動的学修支援センター」など、語学力を伸ばすための環境が素晴らしく整っていました。
④また、IT機器を使った教育にも力を入れており、パソコンを使い、各種教材によるヒアリング力向上、学習に役立てています。
⑤同大学の図書館は、全国的にも有名で、海外の有名大学、図書館を参考にしたというだけあり、従来からある日本型図書館(直方形で平面・立体形)と違い、開放的で重層的、機能性に優れ、とにかく見た目のインパクトは強烈なものがあり、図書館に居るだけでアカデミックな気分になりました。
この図書館のコンセプトは「24時間眠らない図書館」であり、その名の通り、学生は24時間、利用できます(図書館のカウンター業務は22時まで。それ以降の貸出は機械を利用)。蔵書数は7万5千冊(15年4月現在)で、特に洋書は格段に品ぞろえが良いそうです。
専従の司書は1名で、あとの職員は指定管理を受けている「リブネット」の職員です。
⑥同大学のクラブ・サークルでは、スポーツ系が17部、音楽・ダンス系が9サークル、文化部は6部、国際理解・言語系が8サークル、サービス系が6サークル。音楽・ダンス系では、ゴスペル、アカペラ、日本舞踏。国際理解・言語系では、ジェンダー研究会、ディベート部など、いずれも国際色豊かです。また、書道、生け花、茶道といった日本文化を学ぶ文化部も人気が高いということでした。
⑦同大学では、慣れない環境、異国の生活、共同生活などによる心身の体調異変もあります。そのため、学生の心身の健康管理のために、保健室及びカウンセリングルームが設置されています。開室時間は平日9時から12時、13時から17時となっています。
(6)キャリア支援(就職支援)
①同大学の卒業生は、秋田県内に就職先が少ないことと。併せて、在学中に修得した国際的な視点を持った教養、優れたコミュニケーション能力、留学経験を買われ、多くが県外、更には世界を舞台に事業を展開する企業や団体およびこれから世界に進出を目指す企業などに就職しています。
このため、大学側として、学生個々の相談にきめ細く応え、進路支援・就職支援を行うため「キャリア開発センター」を設置しています。
②また、卒業生の一部は大学院へ進学します。希望する分野の大学院への進学後に専門知識を身に付けたいという学生の要望に応え、2013年9月から、「アカデミック・キャリア支援センター(ACSC)」が新設され、国内外の大学院への進学や高度専門職を目指す学生を支援する環境を整えています。
(7)学生生活の特徴
新入生は、全員、入学から1年間を大学の敷地内にある学生寮「こまち寮」で生活しなければなりません。それは、同大学では「寮生活も大切な国際教養教育の一部であると考えている」からです。
「こまち寮」は、日本人学生の他、世界各国・地域の留学生たちが生活しており、共同生活を営みます。こうした共同生活経験から、語学力、社会性、多様性を身に着けます。
なお、「こまち寮」の寮費は20,000円/月(230,000円/年間)、 食費は28,800円/月(230,400円/年間。 春・秋学期の2学期の食費、GW、夏休、大学祭2日間の昼食、年末年始、冬休みの食費は含まれない)となっています。
なお、2年生からは学生宿舎として「ユニバーシティヴィレッジ」、「グローバルヴィレッジ」、「さくらヴィレッジ」があり、1年間の「こまち寮」生活を終えた学生や留学生が入居します。
大学周辺にアパートやマンションなどがないため、「こまち寮」の学生も含め、学内居住率は約90%となっています。したがって、学生たちはキャンパス内で24時間、勉強、クラブ、サークル活動に励むことになります。
(8)まとめ
今回の視察で感じたことは、大学の建学の精神である「学生に国際教養−インタナショナル・リベラルアーツを授け、グローバル社会で活躍する人材に育てることを設立の理念」が見事に具現化され、それが大学の随所にみられるということでした。
図書館をはじめとする校舎(建物)のつくりもしかり、キャンパスの雰囲気、学生の学ぶ姿勢など、国内にあっても〝異文化〟を感じさせる佇まいがありました。
そして、この建学の理念に基づいた人材育成をすすめるという、大学側の意気込みが感じられました。
冒頭に書いたように、「公立学校法人 福岡女子大」の国際化に向けても、是非、参考にしたいと思います。
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