Ⅱ 視察報告

2.世界文化遺産「総本山 仁和寺」(京都市右京区御室大内33)

 2ヵ所目の視察先は「真言宗御室派 総本山仁和寺(にんなじ)」でした。

(1) 「真言宗御室派 総本山仁和寺」とは

①略歴
 「仁和寺」は、真言宗御室派の総本山です。
 光孝天皇の発願によって886年(仁和2)に「西山御願寺」として建立が始められ、開基(創立者)の宇多天皇によって888年(仁和4)に完成しました。この時の元号をとって、後に寺号が「仁和寺(にんなじ)」となりました。
 本尊は「阿弥陀如来」は宇多天皇。皇室とゆかりの深い寺(門跡寺院)で、出家後の宇多法皇が住したことから、「御室御所」(おむろごしょ)と称されました。明治維新以降は、「仁和寺」の門跡に皇族が就かなくなったこともあり、「旧御室御所」と称するようになったといわれます。
 また、「徒然草」に登場する「仁和寺にある法師」の話は著名であり、当寺はまた、宇多天皇を流祖とする華道「御室流」の家元でもあります。

②収蔵品
 仁和寺創建当時の本尊、阿弥陀三尊像(国宝)をはじめ、愛染明王坐像(重文)・増長天立像(重文)・悉達太子坐像(重文)などの国指定文化財や、平安から江戸時代に至る仏像・彫刻が残されています。また観音堂や五重塔などの諸堂に祀られている諸像には、堂宇の創建当時の面影が感じられ、荘厳さが漂います。
 国宝は、御所の紫宸殿を移築した「金堂」をはじめ 、「阿弥陀三尊像」など多数あり、重要文化財を含めると70を超えます。

③名勝
 桜の名所としても名高く、境内の樹高の低い桜は「御室桜(おむらざくら)」と呼ばれ、名勝地に指定されています。普段は境内への入場は無料ですが、「御室桜」の開花時(4月)の「さくらまつり」の期間中は、境内への入場にも拝観料が必要となります。

世界遺産登録.jpg④世界遺産登録
1994年、「古都京都の文化財」として、ユネスコ「世界文化遺産」に登録されており、世界中から多くの観光客が立ち寄られています。

(2) 現地対応者

総本山仁和寺門跡 真言宗御室派.jpg 当日、ご対応頂いたのは以下の方々です。

  • 総本山仁和寺門跡 真言宗御室派
    • 管長 立部 祐道氏(写真右)
  • 総本山仁和寺執行 真言宗御室派
    • 部長 大石 隆淳氏(写真左)
  • 京都府教育庁指導部 理事・文化財保護課
    • 課長 磯野 浩光氏

(3) 現地視察

二王門.jpg①重要文化財「二王門」(京都3大門のひとつ)
 仁和寺の正面に建つ巨大な門。高さは18.7mで重層、入母屋造、本瓦葺。門正面の左右に阿吽の二王像、後面には唐獅子像が安置されています。同時期に建立された「知恩院三門」、「南禅寺三門」が禅宗様の三門であったのに対し、平安時代の伝統を引く和様で統一されています。

②「白書院」
 「宸殿」南庭の西側に建立されています。襖絵などは、1937年(昭和12)に福永晴帆(1883~1861)画伯による松の絵が部屋全体に描かれています。

白書院1.jpg

白書院2.jpg

白書院3.jpg

③「宸殿」(しんでん)
宸殿1.jpg 儀式や式典に使用される御殿の中心建物で、寛永年間に御所から下賜された常御殿がその役割を果たしていましたが、1887年(明治20)に焼失。現在は1914年(大正3)竣工されたもの。御所の紫宸殿と同様に檜皮葺、宸殿2.jpg入母屋造。内部は三室からなり、襖絵や壁などの絵は全て原在泉(1849~1916)の手によるもので、四季の風物をはじめ、牡丹・雁などが見事に描かれています。







霊明殿.jpg④「霊明殿」(れいめいでん)
 「宸殿」の北東にみえる「霊明殿」は、「仁和寺」の院家であった喜多(北)院の本尊「薬師如来坐像」を安置する為に1911年(明治44)に建立されました。内部は正面に須弥壇を置き、小組の格天井をはじめ、蟇股の組物などの細部に至るまで見事であり、周りの建物ともよく調和しています。また正面上に掲げられた扁額は近衛文麿の筆です。

勅使門.jpg⑤「勅使門」(ちょくしもん)
 1913年(大正2)竣工。設計は京都府技師であった亀岡末吉。檜皮葺屋根の四脚唐門で前後を唐破風、左右の屋根を入母屋造としています。また、鳳凰の尾羽根や牡丹唐草、宝相華唐草文様や幾何学紋様など、細部にまで見られる彫刻装飾は、伝統的和様に亀岡独自の意匠を取り入れたもので、斬新かつ見応えがあります。

五重塔.jpg⑥重要文化財「五重塔」
 1644年(寛永21)建立。塔身32.7m、総高36.18m。東寺の「五重塔」と同様に、上層から下層にかけて各層の幅にあまり差が見られない姿が特徴です。初重西側には、「大日如来」を示す梵字の額が懸けられます。塔内部には「大日如来」、その周りに「無量寿如来」など四方仏が安置されています。中央に心柱、心柱を囲むように四本の天柱が塔を支え、その柱や壁面には「真言八祖」や「仏」をはじめ、菊花文様などが細部にまで描かれています。




⑦名勝「御室桜」(おむろざくら)
 「御室桜」は遅咲きで、背丈の低い桜です。近年までは桜の下に硬い岩盤があるため、根を地中深くのばせないので背丈が低くなったと言われていましたが、現在の調査で岩盤ではなく粘土質の土壌であることが解り、樹高が低いのはこの桜の特徴だということです。御室桜.jpg
 毎年春、「仁和寺」には御室桜、「金堂前」の染井吉野、「鐘楼前」のしだれ桜などが咲くそうですが、御室桜は遅咲きで、古くは江戸時代の頃から庶民の桜として親しまれ、数多くの和歌に詠われているそうです。江戸時代の儒学者・貝原益軒が書いた『京城勝覧』(けいじょうしょうらん)という京都の名所を巡覧できる案内書にも「春はこの境内の奥に八重桜多し、洛中洛外にて第一とす、吉野の山桜に対すべし、…花見る人多くして日々群衆せり…」と記され、吉野の桜に比べて優るとも劣らないと絶賛されています。
1924年(大正13)に国の名勝に指定されています。

金堂.jpg⑧国宝「金堂」(こんどう)
 「仁和寺」の本尊である「阿弥陀三尊」を安置する御堂で、慶長年間造営の御所「内裏紫宸殿」を1624~43(寛永年間)に移築したものとされています。現存する最古の「紫宸殿」であり、当時の宮殿建築を伝えるの建築物として、「国宝」に指定されています。堂内は「四天王像」や「梵天像」も安置され、壁面には浄土図や観音図などが極彩色で描かれているそうです。

(4) まとめ

 「仁和寺」の広大な境内には国宝「金堂」をはじめ、重要文化財の「五重塔」、「御影堂」、「観音堂」や、御殿内の「遼廓亭」、「飛濤亭」などがあり、京都の歴史と文化を感じる場所です。
 ユネスコ「世界文化遺産」に登録後は、世界中から観光や視察に訪れるそうですが、まさに日本の宝だと思いました。文化財としての価値ははもちろんのこと、日本の芸術、伝統、精神の象徴として、末永く守っていかなければなりません。