Ⅰ 視察日程

1.2016年11月7日(月)

(1)「独立行政法人国立文化財機構 奈良国立博物館」視察

2.2016年11月8日(火)

(1)世界文化遺産「総本山 仁和寺」視察
(2)「学校法人延暦寺学園 比叡山高等学校」視察

3.2016年11月9日(水)

(1)京都市立「御所南小学校」視察


Ⅱ 視察報告

1.「独立行政法人国立文化財機構 奈良国立博物館」(奈良県奈良市登大路町50)

(1)視察目的

①「独立行政法人国立文化財機構」とは
 「独立行政法人国立文化財機構」は、4つの国立博物館(「東京国立博物館」、「京都国立博物館」、「奈良国立博物館」、「九州国立博物館」)、2つの文化財研究所(「東京文化財研究所」、「奈良文化財研究所」)、そして「アジア太平洋無形文化遺産研究センター」の、計7つの施設で構成されています。
 これら各施設は、それぞれ担うべき役目を持っていますが、その総てに共通しているのは、「文化財を守り」、「研究し」、それを「多くの人々にできる限りよい状態で、かつよい環境で展示」し、「日本の伝統文化への理解を深めていく」ということです。
感謝状.jpg 近年、2011年3月には「東日本大震災」が発生し、また本年4月には「熊本地震」、夏に台風災害など、自然災害によって各地で甚大な被害が出ていますが、こうした巨大地震や自然災害に対応した文化財等の保護、救援、修理等の適切な処置を行うため、「独立行政法人国立文化財機構」は文化財等の防災・救援のための連携・協力体制作りを進めています。
 「九州国立博物館」の設置県である福岡県として、今回の視察の視察を通じ、国立博物館の使命や役割がどういったものであるのか、改めて検証すべく、現地視察を行いました。

②「国立文化財機構」の使命
 前述のとおり、「国立文化財機構」は、我が国の博物館並びに文化財研究に関するナショナルセンターとして、有形文化財(美術工芸品)の保護並びに文化財に関する専門的又は技術的事項に関する調査研究等を担っています。
この役割に応えるため、今年度(2016年度)から始まる『中期目標期間』において、以下の4つのミッションが遂行されています。

1) 国民共有の貴重な財産である有形文化財(美術工芸品)を収集・保管・展示等する国立の博物館として、これらの保護に貢献するため、国宝・重要文化財のほか、散逸、海外流出、滅失毀損等の損失を防ぐべき価値の高いものに着目し、その収集活動を行う。

2)購入や受寄した有形文化財(美術工芸品)を適切に管理し、これに関する調査研究を行い、展覧事業等において、蓄積した幅広い研究成果を示す。

3)文化財に関する専門的、技術的事項に関する唯一の国立研究機関として、文化財に係る新たな知見の開拓につながる基礎的・探求的な調査研究を継続的に行うとともに、科学技術を応用した研究開発の進展等に向けた基盤的な研究を行い、その成果をもって官公庁、博物館等の専門機関、文化財の所有者・管理者・修理技術者等が行う業務の質的向上に寄与する。

4)有形・無形の文化遺産に係る国際協働・協力に貢献する専門的機関として、国際条約等に基づく活動を積極的に推進する。

というものです。

(2)現地対応者

「奈良国立博物館」の概要説明.jpg 当日、下記の方々から「奈良国立博物館」の概要説明ならびに現地案内を受けました。

  • 奈良国立博物館学芸部 企画室長 書跡担当研究員
    • 野尻 忠
  • 公益財団法人 元興寺文化財研究所 副所長
    • 狭川 真一

(3)視察内容

①同館の歴史
奈良国立博物館.jpg まず、「奈良国立博物館」の概要を伺いました。
 同館は、前身が「帝国奈良博物館」で、1889年(明治22)に設立されました。
 1894年には、現在の旧館(重文)が完成、翌1895年に開館しています。
 1900年(明治33)、「官制改(あらため)」により「奈良帝室博物館」と改称。その後、宮内省が管理運営にあたり、1947年(昭和22)文部省所管となって「国立博物館奈良分館」と改められています。
独立行政法人国立文化財機構.jpg そして、1950年の『文化財保護法』の改正に伴い同委員会の付属機関となり、1952年「奈良国立博物館」として独立、1968年の文化庁の発足と同時にその管轄となっています。
 さらに2001年(平成13)4月より「独立行政法人国立博物館」、2007年4月から「独立行政法人国立文化財機構」の一組織となっています。

②同館の概要
 同館の収蔵品は、国宝・重要文化財を含む1800点余で、ほかに奈良をはじめ全国の社寺から寄託された彫刻・絵画・工芸・書・考古資料など多数あり、展観を中心に仏教美術の調査研究・講座・講演・出版などにも意欲的な活動を行っています。
 館全体は、本館と付属棟、東・西新館、地下回廊とに分かれており、広大な敷地に歴史ある建物と新館が同居しています。
 陳列館は旧館と新館に分かれており、仏教美術の諸作品を「飛鳥時代」から体系的に展示し、両館を結ぶ地下連絡路に陳列ケースが設けられ、仏教彫刻の基本的理解に資するため、各種のテーマを写真パネルにして展示、仏教美術の専門館として特色を発揮しています。
 展観は常設展、特別展、それに小規模の企画展などがあり、とくに毎年秋に開催される「正倉院宝物展」はつとに有名で、国内外から多くの方が入場されます。

②同館の所蔵品並びに来館者の状況
 同館には、「国宝」、「重要文化財」、「重要美術品」などを含め、1800点以上に及ぶ仏画や伝統工芸などが収蔵されており、また、それらの収蔵品をデータベース管理し、資料館としても重要な役割を担うとともに、ホームページでも公開しています。
 年間の来館者は40万人から48万人ほどということですが、毎年、秋に開催されています「正倉院展」には20万~28万人ほどが来館されるということで、同館の来館者のうち、半数は「正倉院展」を見るために来館されるということです。

③博物館視察
漆胡瓶.jpg「漆胡瓶(しっこへい)」同館ホームページより 今回の視察の目的は、同館の概要を知るとともに、所蔵品の管理、常設展や特別展の在り方などについて意見交換させて頂きました。なお、当日は「第68回正倉院展」の最終日にあたり、「正倉院展」を見ることもできました。
 この「正倉院展」は今年で68回を数えていますが、9,000件に及ぶ「正倉院」の宝物から、毎年、違った品が展示されており、そのため、「正倉院展」リピーターが数多くおられるということでした。
 今回、「正倉院北倉」から10件、「中倉」から29件、「南倉」から22件、「聖語蔵」から3件、合わせて64件の宝物が出陳されていました。そのうち初出陳は9件で、「和同開珎」貨幣も展示されていました。
 今回の「正倉院展」の〝目玉〟は、聖武天皇ゆかりの「北倉」から、シルクロードの遺風を伝える名品としてつとに有名な「漆胡瓶(しっこへい)」が、正倉院展では18年ぶりに出陳されていました。 
 また、「聖武天皇一周忌斎会(いえ)」で懸吊された「大幡(だいばん)」、「灌頂幡(かんじょうばん)」に関連する宝物がまとまって出陳されていました。
 このほか、素材の異なる3種の「笏(しゃく)」や、高度な技法で作られた「象牙の櫛」など、天平の技と庶民の風俗にもふれることが出来ました。

(4)まとめ

「奈良国立博物館」新館正面.jpg「奈良国立博物館」新館正面 当日は、「第68回正倉院展」の最終日ということもあり、大変多くの来場者がありました。
 現在、国立博物館は全国に4館ありますが、平成27年度の入館者数は、「東京国立博物館」199万4,508人、「京都国立博物館」は65万3,336人、「奈良国立博物館」は45万5,859人、そして、福岡県太宰府市の「九州国立博物館」は88万4,128人でした。
 「九州国立博物館」の入館者数は「東京国立博物館」には及ばないものの、4つの国立博物館の中では2番目に入館者が多く、延べ入館者数は1,300万人に達しています。
 県内はもとより、九州・山口管内、そして、近年では中国や韓国、ベトナム、タイからのお客様も増えており、「九州国立博物館」の特色といえます。
 これからも、九州・山口の拠点の国立博物館として、そして、アジアの文化の相互理解を深める博物館となるために、県議会としてもしっかり「九州国立博物館」の発展に努めて参ります。