Ⅱ 視察報告

2.対馬市役所

(1) 対応者

 〇総務部長       有江 正光 氏
 〇環境政策課 課長補佐 阿比留 孝仁氏

 対馬市役所でのヒアリング、質疑応答については、「ツマアカスズメバチ対策」、「海岸漂着ゴミ対策」についてでした。

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(2)「ツマアカスズメバチ対策」について

ツマアカスズメバチ対策.jpg対馬市広報 市民への啓発

①「ツマアカスズメバチ」の侵入経路
 「ツマアカスズメバチ」が国内で初めて対馬市で確認されたのは2012年のことです。侵入経路は、韓国からの輸入船(コンテナ船)に付着して対馬市に入ってきたといわれていますが、最初に発見されたのは対馬市上県町佐護というところで、ここは対馬市の最も北西、朝鮮海峡に突き出すような形の半島であり、専門家は韓国から偏西風に乗り、飛来してきたと考えています。

②「ツマアカスズメバチ」の特徴
 「ツマアカスズメバチ」は、営巣場所・大きさともに在来種にはない大きな特徴があります。それは、営巣と繁殖力にあります。

 巣は通常、樹木の枝先、それも10メートルを超える高所に営巣しており、巣の大きさは、最も大きなものでは高さ2メートル、幅1メートルを超えるそうです。

 「ツマアカスズメバチ」は、人間が出した生ゴミ、ゴキブリも食べるので都会にも適応できるそうで、高さ30メートルのビルや建造物にも平気で巣をつくるなど、人間が周りにいてもお構いなく、人間が普段生活するすぐ近くでも営巣するという厄介な生き物です。
 日本にいる在来種のキイロスズメバチの女王蜂1匹が産む卵の個数は、だいたい500~1,500個ですが、「ツマアカスズメバチ」の女王蜂は、1匹で、その10倍となる5,000~1万個の卵を産むといわれています。

 1つの巣には2,000匹から3,000匹頭の働きバチがいて、秋には、1つの巣に数百匹の新しい女王バチが誕生すると考えられており、それらの新しい女王バチが一斉に巣立ちをし、新しい巣をつくるため、生息域は一気に拡大することになります。いずれにせよ、とてつもない繁殖力です。

 攻撃力や凶暴性、殺傷力では、在来のキイロスズメバチのほうが凶暴性は上ということですが、「ツマアカスズメバチ」のなにが脅威かといいますと、その驚異的な繁殖力となります。

 韓国では、生息するハチの半数がこの「ツマアカスズメバチ」で占められており、日本昆虫学会は「日本も10年後には、日本全国にツマアカスズメバチが生息する可能性がある」と警告を発しています。

③「ツマアカスズメバチ」被害
 「ツマアカスズメバチ」はトンボなどの昆虫類を餌にしていますが、ミツバチを捕食するということで、養蜂業へ影響が出ています。

 したがって、仮に「ツマアカスズメバチ」が福岡県内で生息域が拡大すれば、養蜂業者や果樹・園芸農家の方々をはじめ、農作物の収穫にとって、とてつもなく大きなダメージになります。

④「ツマアカスズメバチ」対応
 以上のことから、環境省は2015年3月1日、「ツマアカスズメバチ」を『特定外来生物』に指定し、営巣の調査や捕獲など水際対策を進めると発表しています。

⑤「ツマアカスズメバチ」対策
 国の『特定外来生物』指定を受け、対馬市は国・環境省、長崎県と連携し、「ツマアカスズメバチ」駆除に取り組んでいます。

 その第1は、発見した巣を、巣ごと除去するというものです。対馬市内での営巣数と除去数の推移をみると、〇13年:確認巣数56個、除去25個、〇14年:同150個、同134個、〇15年:同260個、同217個、〇16年:同49個、同49個、〇17年現在:同43個、同39個となっています。

 環境省・対馬市の努力により、15年をピークに営巣数は減少傾向にあります。しかし、市は「ここで気や手を抜いたら、たちまち爆発的に増加しています。完全句k地区に向け、継続した対策が必要。」と述べられていました。

 対策の第2は、越冬した女王蜂の捕獲、駆除です。
 「ツマアカスズメバチ」の女王バチは、春先、越冬した土の中から出てきて、一斉に巣づくりに入ります。この時期、産卵のためにすごい食欲で他の昆虫類を捕食します。

 したがって、3月から4月の2か月間、この2か月間、女王蜂を捕らえるためのトラップが極めて有効だということで、数多くトラップを仕掛けることが大切ということです。

⑥まとめ
 外来生物は、定着してしまえば駆除の手立ては難しくなります。研究者によると、「ツマアカスズメバチ」の生息域の拡大はスピードが早いため、発見するたびに駆除し、拡大を防ぐしかないといわれています。九州はもとより、日本国内への侵入を許せば、1~2年で国内に広がるとも指摘されており、養蜂業、果樹園芸への打撃をはじめ、生態系に大きな影響が出てきます。

 このようなことから、対馬市は、これまで「日本本土・九州へのツマアカスズメバチの上陸を阻止するため、対馬で水際作戦を展開する」との並々ならぬ決意で対策を続けています。改めて、「ツマアカスズメバチ」対策に対する対馬市の取り組みに感謝を申し上げ、敬意を表したいと思います。

(3)「海岸漂着ゴミ対策」

①対馬市の海岸漂着ゴミの現況
 四方を海で囲まれている対馬市は、地理的に大陸に近く、対馬暖流や季節風の影響を受けていることなどから、近年、各地の海岸大量のゴミが漂着しており、生態系を含む海岸環境の悪化、美しい浜辺の喪失、海岸機能の低下、それらによる漁業への影響等が危倶されています。

 今回、市役所でのヒアリング終了後、海岸漂着ゴミの現状を視察するため、「小茂田海岸」(厳原市街地から30分の所にある海岸)に移動しました。

 同海岸は、11/11~12に海岸清掃されたばかりで、漂着ゴミは少ないとの説明でしたが、それでも漂着物が海岸に流れ着いており、いくつも目につきました。

 ピンク色のゴミ袋は、前回、清掃したもので、処理を待っておかれているものです。そして、黒い袋は11/11~12に出たゴミ袋で、1つ1トン近くのゴミが入るそうですが、なんと300個も回収され、一時仮置きされています。

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②国の対策
 国は海岸における良好な景観と環境を保全するために、2009年 7 月 「美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律」を施行しました。

③対馬市の対応
 これまで対馬市においては、環境省予算による複数の漂着ごみ関連の調査や回収事業のほか、地域の民間団体等による海岸清掃活動が実施されてきました。しかし、これらについては限定的な規模あるいは一時的な措置のために、海岸環境保全の観点から、十分な海岸清掃活動になっているとは言えず、対馬市の海岸漂着ゴミ対策にはさまざまな課題が残されていました。

 加えて、ゴミは対馬市の海岸に繰り返し漂着してくる状況にあり、対馬市の良好な海岸景観および海岸の環境保全を図るための海岸漂着ゴミ対策としては、海岸に漂着してしまったゴミの回収・処理を今後も継続すると共に、原因を絶つ発生抑制対策も推進して行く必要があことなどから、対馬市は海岸漂着ゴミに関わる総合的な対策を立て、その対策を計画的に進めることが重要であるとして「対馬市海岸漂着物対策推進行動計画」策定、対策に取り組んでいます。

④海岸漂着ゴミ対応の課題
 対馬市には、年間で約2万立方メートルもの海岸漂着ゴミが押し寄せ、その回収費用は3億円/年も掛かっています。しかし、それでも回収し、処理できるのは半分1万立方メートルしかすぎず、あとはそのまま海岸に積み残されている状況です。

 したがって、こうした未回収のゴミは、漁業をはじめ自然環境に影響を与えることは勿論ですが、台風や冬の時期の風の強い時に、また海に流され、それが玄界灘をわたって福岡県や日本各地に流れ着くという結果となっています。

 更に、回収費用についても課題が残っています。
 わが国では、『海岸漂着物処理推進法』に基づき、全国の海岸漂着ゴミの対策として「海岸漂着物等地域対策推進事業費」が年間30億円計上され、このうち、対馬市への回収・処理事業、発生抑制対策事業費は3億円が充てられていました。

 しかしながら、この事業費については、従前は補助率が10分の10であったものの、2016年度から補助率が見直しされ、対馬市への補助率は10分の9となり、対策費は3億円のうち、3千万円を対馬市が手出しせざるを得なくなりました。
 市側は、「対馬市の自主財源では大規模な回収事業は実施できないので、補助率を従前の10分の10、全額補助に戻してほしい。」と要望されています。

⑤海岸漂着ゴミ対策と減量化の取り組み
 海岸漂着ゴミについては、国の予算、市の独自予算を使いながら、回収業者による回収と処理が行われています。加えて、市民のボランティアによる回収も行われています。

 そして、漂着するゴミは、表示言語、製品、商品、使用される漁具などから、大半が韓国と中国からの漂着物と判断されるため、海岸漂着ゴミの発生抑制を韓国や中国にも求めていかなければならないということから、対馬市「釜山外国語大学生とのボランティアによる海岸清掃」(2003~2007年)が実施され、その後、「日韓市民ビーチクリーンアップ」(2008~継続中)という国際交流事業が取り組まれています。

 また、「日韓学生つしま会議」(2006~2008年)、対馬市と市民団体共同による「日韓海岸清掃フェスタIN対馬」(2013~継続中)が行われています。

 こうした事業、取り組みは、日韓両国間の交流促進を図り、問題意識の共有化、対策の推進を図るなど、漂着ゴミを日韓双方で考え、解決していこうという取り組みであり、大いに評価できるものです。

⑥まとめ
 漂着ゴミ問題は、対馬市や長崎県だけの問題ではありません。玄界灘に面する福岡県・自治体にとっても看過できない問題であり、対策が急がれる問題です。

 美しい海岸線の保持、良好な漁場を守るなど、豊かな自然を保護するため、海岸漂着ゴミは国挙げて取り組みを進めなければならない課題です。福岡県でも、漂着ゴミ問題をしっかりと取り組んでいかなければなりません。