Ⅱ 視察報告

2.「福岡県障害者差別解消条例」制定に向け、障害当事者との勉強会・意見交換会

 次の視察先は、大牟田市でした。

(1)視察目的

 現在、福岡県は「福岡県障害者差別解消条例」制定に向け、手続きを進めていますが、制定する条例をより良いものにするためには、障害当事者からの意見聴取は不可欠です。
 そのため、今回、大牟田市や県内のみならず、広く全国で講演活動や障がい者の権利運動に取り組まれている古庄和秀大牟田市議に依頼し、「障害者差別解消条例」に関する講演と意見交換を行いました。

(2)講演者

 古庄和秀 大牟田市議会議員古庄和秀.jpg

  • 大牟田市議会議員 現4期
  • 議会運営委員会 委員長
  • 総務委員会 委員
  • 「障害者の自立と政治参加をすすめるネットワーク」事務局

(3)講演内容(概要)

 ① 講演骨子

  • 2006年12月13日に採択された「国連障がい者権利条約」でしたが、日本が批准したのは2014年1月20日、なんと141番目の批准国。民主党に政権交代した時、批准への道筋を立てた。
  • この条約批准を受け、2013年6月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」、いわゆる「障害者差別解消法」が制定され、2016年4月1日から施行している。併せて、「障害者総合支援法」、「障害者虐待防止法」なども制定、「障害者雇用促進法」改正などの関連法も整備した。しかし、「障害者差別解消法」については十分な財源措置もなく、直接差別、間接差別の定義もない。更に、衆参両院の付帯決議において、〝横出し、上乗せ条例〟を推奨するほど、不十分な条文となっている。
  • 権利条約を批准した日本だが、障がい者差別は厳然としてある。「東日本大震災」では、健常者と比べて障がい者の死亡率が高かった。高等学校や大学への進学率は障がい者が低い。住まいも、障がい者の公営住宅や民間住宅への入居はハードルが高く、施設入居が多い。働き方も平等ではなく、雇用の場も限られ、賃金も低い。貧困率も、障がい者の方が高い。
  • なぜ、日本では障がい者と健常者は平等でないのか。それは、社会的環境の遅れにあり、第一には国の障害者福祉サービス関連予算の低さにある。2016年度、国の障害者福祉サービス関連予算は1兆1,560億円だが、平等な環境整備のためには3〜4兆円が必要。それでもOECDの中では中くらい。
  • もうひとつは、不十分な「インクルーシブ教育」にある。国連の権利条約が求める「インクルーシブ教育」と、文部科学省が進める「インクルーシブ教育」は違う。インクル−ジョン(包括、包含、一体性)の基本はエクスクルージョン、すなわち「排除しないこと」にある。ここを押さえておかなければならない。
  • 日本には、厳然として障がい者差別があるが、差別する方は、自らの言動が差別とは考えていない。
  • 障がい者差別をなくそうという作業、活動は、草むしりのようなもの。むしっても、むしっても雑草は次々と生えてくる。差別を温存する現代社会という土壌を改良していかなければならない。そのための鍬やトラクター、土壌改良剤が「権利条約」であり、「差別解消法」である。
  • そして、差別した側に〝差別した〟という意識も認識もないことが問題。したがって、この解決には、障がいがある人もない人もともに育ち、学ぶ「インクルーシブ教育」環境の整備が不可欠なのである。


 ②「障害者差別解消条例」づくりのポイント

  • 条例をつくるには、知事のトップダウンか、議会や当事者からのボトムアップか、手法が異なる。
  • 福岡県の条例づくりに関しては、事務局体制が弱いと思う。千葉県では、タウンミーティングを800回くらいやったが、そうした気概が福岡県にあるか。福岡県は、7月26日に「条例をつくる会」の意見交換を行ったが、千葉県や、熊本県の条例づくりの時の熱気や合意形成に比べると、福岡県全体の気運の盛り上がりが今一つという面も否めない。
  • それと、民間の〝裏の事務局〟が必要。事務局に障がい当事者を入れることが一番いいが、そうでなければ障がい者のことが分かっている者、法律に詳しいものを事務局に入れ、条例づくりをリードすることが望ましい。知事が議会に提案する前にチェックを入れ、文案を精査しておくことが必要。また、条例には救済措置を入れたほうがいい。
  • 「モデル条例」を示してほしいということだが、明石市の条例を参考にしてほしい。明石市と長崎県の条例とでは、作りこみが違う。明石市は、「手話コミュニケーション言語条例」とか成年後見人制度の問題点を除外した条例など、関連する条例もつくっており、条例ごとに意味を持たせている。
  • 福岡県としてよい条例をつくるため、民進党・県政クラブ県議団に期待したい。

(4)まとめ

古庄和秀2.jpg 今回、古庄市議に講演を頂き、意見交換を行いましたたが、改めて古庄市議の熱心さ、豊富な知識、障がい者差別解消に向けた情熱に感心しました。

 我が会派は、「福岡県障害者差別解消条例」を議員提案条例で制定しようと県議会の他会派にも働きかけてきました。

 本年『6月県議会』において、議員提案に係る政策条例の制定を促進するために、常設の「福岡県議会議員提案政策条例検討会議」が設置されました。そして、「福岡県障害者差別解消条例」案もその場で審議、議員提案条例で制定するように進めていましたが、同『6月県議会』で自民党代表質問に答える形で、小川知事が執行部提案として条例制定を図ると答弁しました。したがって、「福岡県障害者差別解消条例」案は執行部提案という形となります。

 しかしながら、我が会派は、条例提案者が誰であれ、「障害者差別解消条例」が障がい当事者の方々の理解を得られ、本県としての施策がしっかりと執り行われ、障がい者差別の解消に向けたものとなるよう、今後、条例案文を煮詰めていきたいと思います。