Ⅱ 視察報告

3.「甘木山学園」視察

 今回、最後の視察先は、「社会福祉法人『甘木山学園』」でした。

(1)視察目的

 大牟田市にある「社会福祉法人『甘木山学園』」は、「児童養護施設」、「乳児院」、「こども家庭支援センター」を備えた、全国でも稀な施設です。

 今日、日本では子どもの虐待が急増しており、養育放棄や遺棄事件も多発しています。また、様々な理由から、出産後すぐに親元から離れざるを得ない子どもたち、親の離婚や病気、不適切な養育のため児相などに保護される子どもも数多くいます。本県においても同様に、子どもたちを取り巻く家庭環境、社会環境は年々、厳しさを増しています。

 次代を担う子どもたちの幸せと、心豊かで健やかな発達を保障し、自立を支援するためには、国のみならず、地方自治体の使命と役割は極めて重要です。

 今回の視察は、我が会派として、社会的養育を必要とする子どもたちにとって、どのような施策や施設が必要なのかを知るためのものでした。

(2)対応者

甘木山学園.jpg 今回の視察では、石井定理事長、境康利園長をはじめ、スタッフの皆様の対応を頂きました。

 大変ご多忙な折にも係わらず、ご対応頂きましたことに心から感謝致します。

(3)施設の歴史

  • 大牟田市では、1950年代後半に入ると、炭坑の不況のため失業者が増大。その結果、環境不遇児が増加しました。そのため、児童養護施設の必要性が高まり、1956年 10月 1日、初代理事長となる石井竹乃氏が私財を投じ、児童養護施設「甘木山学園」を創設されました。
  • その後、社会情勢の変化により、1971年6月に「甘木山乳児院」、1992年6月「介護老人保健施設・サンファミリー」、2002年4月に「子ども家庭支援センター」が開設され、時代の流れにそった地域社会、行政の要望に応えるために努力を続けられています。なお、児童養護施設に入園した子どもたちは、すでに1,000人を起える数となっています。
  • 施設の基本理念は、
    • 1)人格の尊厳
      • 人は生まれながらにして一人の人格者として尊重されなければならない。
    • 2)権利と発達の保障
      • 生命を守る。心身の成長に対する「安全」の保障。優しさと、愛されている「安心」の権利を守る。
    • 3)人間性の再形成
      • 親と離れて生活する孤独の悲しさ、傷ついた心と力の回復をめざす。子どもを取り巻く良好な環境をつくる。社会的自立に必要な教育を受け、未来への可能性の権利を守る。
    • となっています。

(4)各施設の概要(ホームページから一部引用)

  • ① 児童養護施設「甘木山学園」
    • 甘木山学園2.jpg1)児童養護施設とは、保護者のない児童や、家庭環境などの様々な事情により、保護が必要とする児童を預かる養育施設です。
      •  児童定員は96名(地域小規模養護施設の定員6名を含む)で、対象の年齢は2歳〜18歳となっています。しかし、場合によっては生後間もない子どもから、20歳までの児童も養護することとしています。
    • 2)スタッフ
      •  施設長・事務員・児童指導員・保育士・栄養士・調理師・心理士・嘱託医・家庭支援専門相談員・個別対応職員、職業指導員・特別指導員・その他パート職員
  • ②「甘木山乳児院」
    • 甘木山乳児院.jpg1)乳児院とは『児童福祉法』により社会的・経済的・保健的な理由により家庭で養育できないおおむね2歳未満、かつ必要がある時は就学前までの乳幼児を昼夜預かり、養育する児童福祉施設です。
    •  また、家庭引き取りになった後も必要な時は相談やその他の援助を行う施設です。
  • 2)乳幼児を 1ヶ月以上預かる長期利用。ご家族の病気・仕事・冠婚葬祭等で短期間(1ヶ月未満)だけ預かる短期利用があります。定員は20名で小規模な施設です。
  • 3) 利用にあたっては、児童相談所、市町村の子育て相談に関わる窓口(福祉事務所等)に相談の上、施設利用が可能となります。
  • 4) スタッフは、院長、事務員、看護師、保育士、児童指導員、家庭支援専門相談員、心理士、栄養士、調理員、嘱託医、処遇補助員となっています。
  • ③ こども家庭支援センター「あまぎやま」
    • あまぎやま.jpg1) こども家庭支援センター「あまぎやま」は、児童養護施設「甘木山学園」、「甘木山乳児院」を本体施設として、家庭・学校・地域からの相談、児童相談所からのケース支援の受託、関係機関との連絡調整・連携により、子どもや家庭を支援する児童福祉施設です。
  • 2) 学校や地域と密着した支援相談活動がとられています。児童の定員は96名(地域小規模養護施設の定員6名を含む)、対象年齢は2歳〜18歳(場合によっては2歳前や20歳まで預かりができます)ですが、不登校や引きこもりで悩んでいる子どもたちが通う施設でもあり、そのため、小中学生(義務教育)の場合は、所属校長の承認を受ければ、「あまぎやま」に通った場合でも出席扱いとなります。
  • 3)スタッフは、施設長、事務員、児童指導員、保育士、栄養士、調理師、心理士、嘱託医、家庭支援専門相談員、個別対応職員、職業指導員、特別指導員となっています。また、大学生ボランティアの協力もあり、料理教室・おやつ作り・レクリエーション活動や、里親サロンの場としても利用されています。

(5)まとめ

 今回、初めて「社会福祉法人『甘木山学園』」の各施設を視察しましたが(介護老人保健施設「サンファミリー」を除く)、その社会的責務の大きさ、重要さに敬服した限りです。

 近年、子どもたちを取り巻く家庭環境、社会環境は厳しさを増しています。厚生労働省によれば、児童虐待の背景には、

  • 1)妊娠、出産、育児を通して発生するもの、保護者自身の性格や、精神疾患などの心身の不健康から発生するものとして、望まない妊娠で、妊娠そのものを受け入れられない、生まれた子どもに愛情を持てない、保護者が未熟で、育児不安、ストレスが蓄積しやすい、マタニティブルー・産後うつ病・精神障害・知的障害・慢性疾患・アルコール依存・薬物依存等など「保護者側のリスク要因」。
  • 2) 手がかかる乳児期の子ども、未熟児、障害児などのほか、子どもの側に何らかの育てにくさなど「子どもの側のリスク要因」。
  • 3) 複雑で不安定な家庭環境や家族関係、夫婦関係、社会的孤立や経済的な不安、母子の健康保持・増進に努めないなど、「養育環境のリスク要因」。

があるとされ、一つの要因でも、また要因がいくつも重なり、親・保護者が児童虐待を起こしてしまうとされています。

 本年8月4日、厚労省が発表した「2015年度児童虐待件数」によれば、昨年度の児童虐待件数は対前年度比16%増の10万3,260件にも上り、過去最多を更新したことが明らかとなりました。集計を始めた1990年度から25年連続の増加で、初めて10万件を突破しています。これにより、わが国では児童虐待が後を絶たない深刻な現状があらためて浮き彫りになった。

 厚労省は増加の要因の一つとして、子どもの前で配偶者らに暴力をふるう「面前DV」に関し、心理的虐待と捉えて警察が通告する事案が増えた点を指摘。専門家からは、地域から孤立した家庭の増加や経済格差の問題が背景にあるとの見方が出ている。

 さらに、私は「親・保護者の貧困」というのも児相虐待の大きな要因と考えています。したがって、社会的貧困の根絶というのは、児童虐待を減らすための必要不可欠な対策だと思います。

 そのため、国、地方自治体は、児童虐待の対策について直接的な施策を講じることはもちろんのことながら、社会的貧困の根絶、子の貧困対策についても合わせて考えるべきだと思います。

 今回の視察では、くしくも施設の方が「うちのような施設に来る子どもがいなくなることが、本当は望ましい社会なのです」と言われたことが心に残っています。

 児童虐待、養育放棄などがない社会こそ、私たちが目指すべき真の社会だと思います。