Ⅲ 視察報告
2.学校法人「筑陽学園中学・高等学校」
(1)現地対応者
○新田 光之助 理事長・校長
(福岡県私学協会 会長)
○新田 覚二郎 副校長
○石原 幸男 教頭
(2)視察目的
少子化が進み、児童・生徒の数が年々減少する中、大学においては18歳人口の減少が深刻になる「2018年問題」が迫っています。これは、なにも大学だけの話ではなく、中学や高校でも少子化に直面することになります。
私立の高等学校でも生き残りを懸け、様々な戦略がとられています。国公立や有名私大への進学率を誇ったり、スポーツで名を馳せたり、特色ある学科を導入したり、中には凝った制服で受験生を増やすといった学校もあるようです。
こうした中、「筑陽学園」は「特進S」と「特進」クラスを設け、大学進学率を高めるとともに、「デザイン科」というクラスを設け、学園の特色を出しています。また、文武両道の精神のもと、生徒には勉強と部活の両立を求めています。
こうした取り組みにより、同学園の偏差値ランクは福岡県内で6位(全174校)、県内私立では4位(全64校)、全国では137位(全5,233校)と上位に入り、近年は入学希望者も増えています。
特色ある学園運営はどのようにして形づくられたのか。そして、どのようにして生徒を育てているかなど、学園の実情を知るため視察を行いました。
(3)筑陽学園の学園沿革
学校法人「筑陽学園」は、1923年に「九州家政女学校」として、初代校長・新田ミツが創立。1935年に「筑陽女学校」と改称されました。
1944年「実業学校令」により、財団法人「筑陽女子商業学校」として発足。1948年には学制改革により、「筑陽女子高等学校」を設置。1951年に学校法人「筑陽学園」に改組されています。
その後、1958年に「太宰府高等学校」(男女共学〉を併設。1962年に「太宰府高等学校」に産業デザイン科を新設。1965年、「筑陽女子高等学校」と「太宰府高等学校」を統合し、現在の「筑陽学園高等学校」(男女共学)と改称されました。
そして、1979年に普通科に「特別進学クラス」が編成され、1991年には「筑陽学園中学校」(男女共学)を新設。2001年には普通科に「特別進学Sクラス」が編成され、今日を迎えています。
(4)教育理念
「筑陽学園」の校訓は「人を愛し、人に愛される人間を育てる」であり、教育方針は「自らを学び、失敗から学び、自然の本質から学ぶ」となっています。
また、教育の理想を掲げ、”真”(真理を探求し、謙虚で誠実な心を持った人間の育成。)、”善”(道徳性を身につけ、たくましい実践力を持った人間の育成。)、”美”(豊かな情操を持ち、自然や芸術に親しむ人間の育成。)を追求しています。
(5)教育方針
学園の教育方針は、「個性を伸ばし、真の実力を伸ばす」としており、「真剣勝負の授業」、「個性に応じた進路指導」の二つの柱を基本に、自立した学習を支援するシステムとツールが巡視されています。
この自立した学習を支援するシステムとツールとは、具体的に、
- ①講座制:進路や興味に応じて、授業が選べる。
- ②教育設置のコンピューター設備:自分で調べて、自分で分析できる。
- ③自主選択特別講座:各分野の本物に触れることのできる、専門家による特別講座。
- ④放課後指導:基礎学力や応用力を伸ばす。
こうした取り組み、教育環境により、生徒は自主的、主体的に勉強に取り組んでおり、個々の実力を伸ばしています。
(6)自分の目標に合わせて選ぶ4つのクラス
「筑陽学園」には、個々の生徒の希望、目標によって4つのクラスがあります。
①「普通科」:
1)「進学クラス」
一人ひとりの個性や希望を大切に考えながら、それぞれの目標に応える独自のカリキュラムが特徴です。また、自主的な学習が可能な「講座制」を上手に活かしながら幅広い目標設定に対応した学習を 徹底しています。勉強と部活の両立を目指しています。
2)「特別進学クラス」
質と量のバランスのとれた授業で、主要国公立大学(九大、熊大など)・有名私立大学(明治大、立命館大、西南大など)合格へ導きます。また、希望者は特進Sクラスに編入が可能であり、学力奨学生への道も開かれています。生徒一人ひとりの能力や学習進度を把握し、 個人指導を徹底できるように特進クラスは80名(2クラス)の少人数編成。国公立大学や有名私立大学を目指します。
3)「特別進学Sクラス」
量だけではなく「考える力」を養成する質の高い授業で、 難関国立大学(東大、九大など)・難関私立大学(早稲田、慶応など)合格へと導きます。生徒一人ひとりの能力や学習進度を把握し、個人指導を徹底できるように特進Sクラスは30名の少人数編成。難関国立大学を目指します。
②「デザイン科」
美術・デザイン系という専門的な希望進路に応じた学習とカリキュラムによって、しなやかな感性と個性を尊重しながら能力を高めていきます。また、「講座制」を活かして、専門分野と受験勉強それぞれの実力養成が可能です。 専門科目ゆえの不安や焦りを感じることなく、自分が進む道を発見できるよう進路・進学指導を重視。伝統あるデザイン科からは、第一線で活躍するデザイナーが数多く生まれています。
以上、4つのクラスによって、それぞれ学習する内容や目指す目標が変わっています。
授業で各クラスとも共通して言えることは、 「自己選択」「自己責任」「個人尊重」という教育方針を着実に反映させる指導が行われています。
さらに生徒一人ひとりの個性を大切に考えた「講座制」を基盤に、クラスや学科の枠にとらわれずに自分が選んだ授業に参加でき、様々な個性の持ち主が同じ教室に集って受講することができます。そこから、他者を認め合い、協調性、協力し合うという心をはぐくむことできます。
(7)学園生活
「筑陽学園」は、授業だけではない充実したスクールライフが遅れるように工夫されています。
①部活動
生徒たちの「真剣」を育むため、運動部は13部、文化部は17部あり、日々、生徒たちの活動が続けられています。
[運動部]
陸上部、サッカー部、硬式野球部、ソフトボール部、男子剣道部、軟式野球部、女子剣道部、男子バレーボール部、男子テニス部、女子バレーボール部、女子テニス部、男女水泳部、合気道部、男子バスケットボール部、卓球部、女子バスケットボール部、応援リーダー部(應援團)、応援リーダー部(チア)。
特に、チアリーダー部は成績優秀で、全国上位に名を連ねる有名校です。
[文化部]
「感性を磨き、感動を広げる幅広い活動」をスローガンに、芸術系、学術系、技術系などバラエティに富み、放課後の練習や創作活動によって高い文化性と実力を育んでいます。
放送部、写真部、美術部、書道部、吹奏楽部、コンピューター部、インターアクト・クラブ、科学部、 E・S・S、文芸部、マンガ同好会、郷土史研究同好会、茶道部、囲碁・将棋同好会、ギター同好会、手芸愛好会。
②国際交流
「筑陽学園」では、「世界に飛び込む、世界とつながる」のもと、国際交流が盛んにおこなわれています。
1)カナダ語学研修旅行
「筑陽学園」では、カナダで約2週間のホームステイを経験する「カナダ語学研修」を実施しています。
ホームステイでは、一人ずつカナダの家庭にホームステイし、ホストファミリーとコミュニケーションを図り、午後には語学学校での英会話授業を受け、生きた英語を学びます。
カナダの文化や生活習慣に触れ、ホストファミリーとの友情など貴重な体験を得ることができます。
また帰りにはアメリカ、ロサンゼルスにあるユニバーサルスタジオにも立ち寄ります。
2)イタリア研修旅行
イタリア各都市を巡り、市内観光、美術館・寺院見学等を行い、国際的な場での生きた学習経験、広い視野を育てます。(1、2年生の希望者対象)
また、希望者を対象に、フランスやイタリアをはじめヨーロッパ各地を巡る、デザイン・美術研修を行っています。
3)交換留学制度
人材育成を目的として、約1年間の「交換留学生制度」が設けられており、ロータリークラブやニュージーランド友好協会などとの協力関係によって、アメリカやカナダ、ニュージーランドへの留学が可能となっています。
異文化を肌で感じ、地元の人々とのコミュニケーションを通して、語学や友情、社会性などを身につける貴重な経験ができます。
また、アメリカやオーストラリアの高校生も本校で共に学んでいます。
(8)結び
「筑陽学園」の新田光之助理事長・校長は、「筑陽ならではの人間力を育む教育を実践している」として、「家庭が、人が人となる第一歩を踏み出す場所であるように、学校もひとつの大きな家庭と捉えており、ご家庭で来客者を迎えるのと同じように、すべての生徒が来校者を暖かく迎える姿勢を身につけることで、本校の一員としての己を知り、成長していく」と話されています。
そして、「生徒たちの無限の可能性を信じ、知力・体力が最も充実しているこの時期だからこそ、正しい躾と、自身の道を真っ直ぐに歩んでいくための道標を示し、努力する習慣とマナーを身につけた、真に人に愛される人間となるために、軸をずらさないで学びの場であることこそ、筑陽学園の使命であると確信しています。」と述べられています。
こうした学園の理念、教育方針のもと、生徒は一人ひとり自主性と主体性をもって学園生活に励んでいます。
生徒たちの頑張り、生き生きしたまなざしを見る限り、新田理事長の想いはすべからく果たされるものと思いました。