Ⅱ.視察報告

2.9月2日:「秋田市教育委員会」

 次の視察先は、「秋田市教育委員会」でした。

(1)視察目的
 文部科学省が本年8月25日に公表した「全国学力テスト」の結果、秋田県は小学校(6年生)の国語A(基礎的な知識)・B(基礎的な知識を活用した思考力、判断力、表現力、算数A・B、中学校(3年生)の国語A・Bで都道府県別の平均正答率が全国1位でした。また、他教科でも、中学校の数学A、Bと理科が2位、小学校の理科が3位といずれも上位の成績でした。

 秋田県では、小学校、中学校のすべての教科で全国平均を4ポイント以上上回っており、特に高かったのは小学校国語の応用力を問うB問題。全国平均正答率(公立)65.4%に対し、11ポイント高い76.4%でした。

 秋田県では、B問題を課題として取り組んできており、A問題よりも平均正答率が全国の状況を上回る傾向が続いており、こうした秋田県の小中学校の児童の学力の高さが注目されています。

秋田市教育委員会.jpg 我が会派は、秋田県の小中学校生徒の学力の高さに注目し、なぜ「全国学力テスト」で学力トップもしくは上位を維持できるのか。その理由を知るべく、秋田県の教育行政を視察することにしました。

(2)現地対応者

  • 秋田市教育委員会
  • 秋田市教育委員会

(3)「秋田市の学力向上に係わる取り組み」の説明
 今回の視察では、秋田市教育委員会が作成した「秋田市の学力向上に係わる取り組み」(レジュメ)に沿って、説明を受けました。内容は、以下の通りです。

①秋田市の概要

  • 人口:約32万人(1997年から中核市)
  • 学校数:小学校45校、中学校24校、児童自立施設内学校1校、高校2校、専修学校1校→児童数の減少により、来年4小学校が統合し、1校へ。
  • 単級校:小学校16校、中学校6校
  • 生徒数:約23,000人(小:15,000、中:8,000)
  • 教員数:約1,500人(小:900、中:600) ※非常勤講師は除く→教員の高齢化が進んでおり、平均年齢は50歳。
  • 指導主事数:16名→市教委が指名する

②秋田市の学力向上に係わる取り組み

  • 秋田市学校教育の重点の周知と活用
    • 「豊かな心と確かな学力、健やかな体を育む教育の充実」を全教員に配布し、徹底。
  • 指導主事、市教委の学校訪問
    • 指導主事、市教委が全ての小中学校を、年1回は必ず訪問する(小‐7月、中-9〜10月)。学校の課題を洗いざらい出すため、8:30〜午前中は、全クラスを回り、そして研究授業を見る。午後から、研究授業に基づいてその授業の研究会を行う。この研究会では、学年、教科ごとに研究を図り、教育指導を行う。
    • また、授業内容とは別に、「教師とは何か」なのどテーマに基いて研究会も行う。
  • 教職員研修
    • 2015年度は全74講座。
    • 専修研修においては小中合同研修会となる。
    • また、全市一斉授業研究会も実施される(2010年から実施。今年度で6年目)
  • 学力調査の実施
    • 全国学力テスト −毎年度4月、小6と中3で実施。
      • 秋田市のHPに結果概要を公表
      • 「学習指導改善の方策」を作成し、各校へ配布
      • どのような力が求められるかを調べる。
    • 秋田市基礎学力テスト−毎年度10月、小5と中2で実施。
      • 学校ごとの成績発表はやってない
      • 調査結果を分析し、授業改善のヒント」を配布。
      • 「実践事例集」の作成、各校への配布
    • 県学習状況テスト −毎年度12月、小4、小5、中1、中2で実施。


市教委による補足説明.jpg(4)市教委による補足説明
 秋田市の学力向上に係わる取り組みの説明を受けた後、補足説明を受けました。

  • 大学教員の学校派遣
    • 国語、算数・数学、英語では、大学教員も年に3校ほど学校で授業をしてもらっている。
  • 「教科協力員」の活用
    • 「教科協力員」は、地区の公開授業研究会で優れた実践発表を行った者など、授業技術が高く、また、単元構想や教材研究などにも定評がり、研究主任の補佐的立場にある教員に委嘱。この「教科協力員」が他校の授業研究に関わることにより、各校の授業研究を活性化し、相互の研鑽につながっている。
  • 要請訪問
    • 「教育指導員」が、学校からの要請を受けて派遣される。
  • 教職員研修    
    • 「基本研修」、「職務別研修」、「専門研修」、「課題別研修」とあり、それぞれの役職、職歴、教科ごとに研修が義務付けられている。
  • 少人数学習推進授業
    • 小1〜中3まで、全て30人学級。加配分の予算は県費で上乗せ。年間、約7億5千万円。→TT、生徒指導員の加配。特に、TTは大規模学校で活用し、習熟度教室も実施。

(5)質疑応答

  • 全国から視察が来て、秋田市の作成した「授業改善のポイント」を差し上げていると思うが、その自治体で学力が上がらないのはなぜだと思うか?
    • 指導主事と現場の教員とがはなしあいながら授業のやり方を決めている。そういう土壌がある。ひたすら、授業力向上に努めている。
  • 秋田市基礎学力テストでは、学校ごとに成績公表しないのはなぜか?
    • 目の前の子どもの学力をいかに上げるかが問題で、学校ごとの比較をやっても意味がない。その学校の改題を見つけ出し、改善し、学力に向上につなげるという目的のテストである。   
  • 沖縄県では「学びの共同体」という取り組みをやって学力を伸ばした。沖縄との違いは何か?
    • 沖縄の、子どもたち自身の学びを伸ばし、つかみ取る授業は参考になっている。
    • 秋田は家庭学習というのがあり、それが大きい。学びに対して家庭環境が大切。親と学校・担任とが意見交換しあいながら子どもの学びを育てる。
  • 秋田の家庭環境とは?
    • 秋田の県民性、地域性が大きい。長いこと、人間性を育てる、人づくりの教育に力を入れてきた成果。そして、学校と地域・家庭とのつながりを大切にし、秋田の教育の柱としている。
    • 秋田市内の都心部より、地方の方が生徒指導にかかる労力が少ない。
  • 様々な取り組みをやられているが、教員の多忙化はどうなっているか?
    • 残業していない教員はいない。多忙化は秋田も同じ。
    • ただし、県教委なり、市教委などから、上から「これをやれ」という命令的なことはない。現場教員と指導主事が話し合いながら物事を進めている。これも秋田の伝統。

(6)まとめ
 今回、秋田市教育委員会の指導主事2名より、秋田市の学力向上の取り組みについて説明を受け、そして、私たちの「秋田県が学力向上を成し遂げ、それを継続させているのは、一体、どのような手法、取り組みによるものなのか。」という問いかけに、真摯に答えて頂きました。

 結論から言うと、「秋田の学力は一日にしてならず!」ということでした。
 「なに当たり前のこと言ってんだ」という指摘もありそうですが、秋田県は1960年代初頭まで、「全国学力テスト」では40位台を低迷していました。こうした現状に、県の関係者(議会、行政、教育委員会)は「これでは胸を張って故郷を語れない。このような学力状況を変えなくては」ということで、教育改革が始まりました。

 その教育改革の大きな柱が、①少人数学級の推進、②地域・家庭から学力向上を図る取り組。③教育力向上の取り組みです。このうち、②は生活習慣の改善と家庭教育の推進の二つが含まれており、③は教師の授業力・教育力など授業技術向上の取り組みです。

 こうした教育改革の取り組みは、いまの子どもたちの親が小学生の時から始まっており、いわば2世代を通じて実施されています。したがって、家庭では「早寝、早起き、朝ごはんなどの生活習慣の改善。そして、家庭学習をやることが当たり前」になっているのです。

 また、教師の授業力・教育力など授業技術向上の取り組みも、県教委や市教委から「上からやらされている」のではなく、現場教師が日々の授業の中から課題を見つけ出し、それを改善するために教科担任、先輩教師、さらには指導主事に相談し、指導を受け、研修・研究し、克服していきます。そこには、現場教師、指導主事、教育委員会の連携が取れ、相互関係の上に成り立っていると説明されました。ただし、現場の教員の献身的な努力(超過勤務)に支えられているという現実も認められていました。

 こうした、学校、地域、家庭での教育改革、学力向上の取り組みの積み上げ、蓄積されたものがあって、はじめて学力の向上が果たされたと思います。

 しかし、単に「秋田マニュアル」を導入すれば、自分の県、市でも学力が向上できるかといえば、そうではありません。「なぜ秋田でできて、うちではできないのか。子ども学力が伸びないのか」という結果になると思います。

 それは、前述したとおり、秋田県がこれまでに学力向上に費やしてきた時間、いわば〝歴史が違う〟ということです。
 まさに、「ローマは一日にして成らず」ではなく、「秋田は一日にしてならず」ということでした。

[参考資料] :秋田県の学力に係わる経過と取り組み(秋田県教委の資料参照)
 秋田県は、1960年代初頭まで、「全国学力テスト」では40位台を低迷していました。「これでは胸を張って故郷を語れない。このような学力状況を変えなくては」ということで、県教育関係者たちの教育改革が始まりました。

(1)4つの教育改革の柱。
①少人数学習推進事業
 2001年から『少人数学習推進事業』に県費56億円(累計)をかけて実現。そして、成果の上がった学校の事例を県内で共有するため、事例集を作成し、また現場に戻すという取り組みを継続しています。
 こうした、取り組み→検証→課題の抽出→改善策→実践の取り組みを、秋田では「秋田型PDCAサイクル」と銘打ち、各地区・学校で推奨し、取り組んできました。

②学習状況調査
 「少人数学習推進事業」と並行して行っているのが、県独自の「学習状況調査」(2002年から実施)です。これは学習指導要領の定着度や少人数学習の成果や課題の把握、そして学習指導の工夫改善のための情報収集を目的とし、この結果を各学校で一人ひとりの指導に活かしてもらうため、小学校4年生から中学校2年生までの悉皆調査となっています。さらに、全国学力・学習状況調査では、対象科目は国語、算数だが、秋田県では社会、理科、英語も含みます。そして、学校の教師が採点し、そのことで児童・生徒の理解度やつまずきやすいところがわかり、翌日から指導に生かすことができるとされています。

③ 算数・数学学力向上推進事業
 2005年にスタートした事業で、勉強嫌いの引き金ともなりやすい算数、数学の学力を確かなものにするのがねらいとなっています。各学校の授業水準を同等レベルに保つため、義務教育課の推進チームが全県の小・中・高等学校を訪問し、小学校から高校までの12年間を見通した観点から指導を行うとしています。

④教育専門監の配置
 教科指導に卓越した力のある先生を「教育専門監」に認定し、その1校だけに限定せず、近隣の小・中学校も指導します。多くの子どもが良質の授業を受けられること、教師も専門のノウハウを身につけられるという相乗効果を図っています。そのほかにも大学の先生の専門性を、児童・生徒の指導や学校の運営や研究体制に活かしてもらう「大学出前授業」、科学する心を育む「夢プラン事業」などの取り組みも続けられています。

(2)地域・家庭から学力向上を図る取り組み(秋田県教委の資料参照)
①「秋田わか杉っ子 学びの十か条」
 秋田県が注力しているのは学校教育だけではありません。秋田県は、子どもの学力向上において家庭を重視した「秋田わか杉っ子 学び の十か条」を掲げています。

 これは児童・生徒の生活習慣や学習習慣を改善することが学力を向上させることにつながるとして、家庭、地域から子どもたちの学力向上に取り組むというものです。

②「ふるさと教育の推進」
 県内全校の共通実践課題として、ふるさと教育を行っている。子どもたちが郷土の自然や人間、社会、文化、産業などに触れ合う機会を充実させ、そこで得た感動体験から、秋田県のよさの発見、愛着心の醸成、秋田県で将来も生きていこうという意欲に結びつけるというものです。

③ハロースクール&ほっとエリア運動
 全国的に、子どもたちを社会から閉鎖することで、安心・安全を守るという傾向にある中、逆に秋田県は、地域に学校を解放し、地域の目にさらされることで子どもたちを守るという、「ハロースクール&ほっとエリア運動」を展開しています。具体的には、本の読み聞かせや書写などを地域の方が指導する学習活動支援、登下校指導や校外巡視などの安全管理支援、伝承遊び、昔話を伝える体験活動支援、子育て講話、PTA講話などの研修活動支援などです。これらの活動により、県内の幼・小・中・高の学校には年間通じて多くの市民が訪れています。

④少人数学級=児童一人ひとりに応じた指導と、ノウハウを共有する「しくみ」
 30〜35名程度の少人数学級に対し、2名の教員で指導することで、個に応じた丁寧な指導が行われている。いわゆる「ティーム・ティーチング(TT)」です。このTTは、複数の教師が協力して行う授業方式のことをいいます。

 TTでは、きめ細やかな指導に加え、教室で教員同士が教え方を学び合うメリットがあります。例えば、秋田県には「教育専門監」という教員が30人ほど配置されており、その教員がTTの場でモデル教師となって指導法を若手に伝播していく「しくみ」ができています。

 また、「校内授業研究会」は年間12 回行われ、ベテラン教員のノウハウが若手に継承される場となっています。

⑤授業成立のための基盤づくり
 児童に「学習規律」、「学習ルール」を設け、指導しています。これは、授業の45分間のうち、授業態度や忘れ物の注意に時間が費やされてしまうと、学習に集中する時間が減ってしまうことから、学校や教室でのルール、規律をしっかり決め、授業(時間)が最大限有効に行われるようにするというものです。

 具体的には、チャイム着席、学習用具の準備、学習への参加のしかたなどが徹底され、学校全体で取り組まれています。

⑥家庭学習の充実
 授業と家庭学習のつながりを意識して、家庭学習に取り組まれています。
 例えば、「宿題は先生が出すもの」、「家庭学習は自主的にやるもの」という意識を持たせるとともに、一人ひとりの児童に「自学ノート」といった形で、作文などの家庭学習に取り組ませています。

 なかでも、ユニークなのが「リレーノート学習」で、家庭学習用の「自学ノート」を「今日はAちゃん、次の日は Bくん」というように、リレー式に回していくというものです。

 これは、いわゆる「勉強ができる子」のノートを子どもたちが見て、「できる子」の家庭学習のやり方を見習うことができるというものです。

⑦保護者との連携
 学校が保護者と連携して「家庭学習」、「生活習慣」の定着が図られています。これは、学力の向上には規則正しい生活習慣が欠かせないとして、「7・2・1運動=7時間睡眠、家庭学習2時間、家を出る1時間前起床」を家庭に働きかけています。

[補足資料]:「教育関係者による秋田県学力向上要因の研究結果」
 全国で秋田県の学力が注目されるなか、大学や教育機関の関係者などが「秋田県の学力はなぜ高いか」という研究、調査が行われています。

 詳細な研究結果は省くとして、これらの研究の結果については同じ傾向が見られます。それらは、おおむね以下のような内容となっています。

  • 「全国学力テスト」で秋田県は常に上位だが、塾に通っている子どもは、小学6年生で22.8%と全国最下位。塾に行く=学力アップじゃない。
  • 秋田の小学生6年生の休日の学習時間は1時間以上が84%に上り、全国平均の57.4%に大差をつけている。自宅で自学自習をできるかどうかで学力にかなりの差が出る。
  • 教える、やらせるという一方通行の授業ではなく、先生と子どもの対話型の授業が子どもたちの学習意欲を高める。先生が問い掛け、1人が答える。それに対し、ほかの児童が「同意」や「付け足し」「ほかの考え」などを述べ、意見交換をする。
  • 学力上位の地域では、早寝早起きや、朝食をとるといった基本的な生活習慣を実施している家庭が多い。
  • 昔ながらの農村型安定社会の方が正答率が高い。これは、こうした地区では三世代同居の家庭が多く、祖父母が孫たちの勉強を見る、基本生活習慣をつけさせるといったことができる。逆に、共働き家庭、母子・父子家庭など、核家族化が進むと、親が子供を見る人数や頻度が減り、子どもの基本生活習慣づけ、基礎学力、学習習慣にマイナスとなる。

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