Ⅱ.視察報告

5.秋田県立「男鹿海洋高等学校」

男鹿海洋高等学校01.jpg 最後の視察先は秋田県立「男鹿海洋高校」でした。
 同校は、会派の視察時間が若干早まったにも関わらず、真摯に対応して頂きました。また、同校の「太鼓部」による練習の模様も見ることもでき、大変有意義な視察となりました。

(1) 現地対応者

  • 学校長  堀川 渉 氏
  • 副校長 
  • 教 頭 

(2) 「男鹿海洋高校」の概要
(同校HPより引用 http://www.kaiyou-h.akita-pref.ed.jp/index.php

  • 「男鹿海洋高校」は2004年4月に創立され、12年目を迎えている。
  • 秋田県の水産界を担う人材の育成を主たる目標として、1946年6月に「秋田県立水産学校」として出発。以来半世紀以上にわたり、県下一円より生徒を募り、水産教育に努めている。
  • 1952年には漁業科、製造増殖科を設置し、1956年には、漁業専攻科の設置と同時に大型実習船初代「船川丸」(289.9トン)の建造を行い、海技士教育にも本格的に踏み出した。
  • 1961年には機関科を設置し、1962年には水産増殖科を水産製造科に改め、翌1963年には無線通信科を設置。
  • 1967年には大型実習船第2代「船川丸」の竣工と同時に機関専攻科も設置され、ここに水産人の育成と海技士の育成ができる本格的な水産高校となり、その後、多くの卒業生が遠洋漁船や商船に乗り活躍することとなる。
  • 1973年からは船舶職員養成施設に指定され、水産高校としての黄金時代を迎える。
  • 1989年からは漁業科と機関科がそれぞれ海洋技術科の生産コース及び機関コースとなり、漁業専攻科の募集停止となった。
  • 1994年には、第4代「船川丸」が竣工したが、それまで行っていた年3航海から2航海となり、実習船の使い方も変わってきた。
  • 中学生の卒業者数の減少から、2004年には「秋田県立男鹿高等学校」と統合し、普通科と水産科を併せ持つ総合制高校「秋田県立男鹿海洋高等学校」となる。
  • 2013年3月には、海を取り巻く国際情勢の変化やマグロ資源の減少などから大型実習船が廃止となり、小型沿岸実習船「NAMAHAGE」を新たに建造。漁獲し、それを加工し、さらに販売をするという水産の6次産業化を単独で学習できる学校を目指している。
  • 現在、全校生徒数350名の総合制高校。
  • 水産物を獲って、加工し、販売するという水産の六次産業化を学校全体で学ぶ教育を目指している。 昨年、全県を会場に開催された「国民文化祭」、男鹿市が会場となった「種苗交換会」は、実習製品の販売や生徒のボランティア活動が高く評価された。


(3) 堀川校長の学校紹介

  • 同校は、普通科、海洋科、食品化学科の3科となっている。
    • 普通科は、ビジネスに関する知識を身につけ、社会で活躍できる生徒を育成している。具体的には、同校で加工・生産した缶詰やかまぼこなどの商品のデザイン(商標)、販売方法を考え、マーケティングしていくかということを学びます。
    • 海洋科は、船舶の操縦や漁業、海洋開発などについて学習します。海洋実習や漁業実習、ダイビング実習なども行います。
    • 食品化学科は、水産物を中心とした食品の加工・流通・管理に関する学習をします。
  • 本校の特色は、「男鹿学」を取り入れている。この「男鹿学」とは、男鹿市出身、男鹿で学んだことに誇りを持つ人間に育てる。自然、伝統文化なども学び、男鹿の良いところ、男鹿ならではの特色を取り入れた授業を行っている。その一つが、「なまはげ太鼓」であり、同校のシンボリックな活動となっている。
  • また、「ハタハタ学」という、本校ならではのユニークな学習も行っている。
    • 秋田県を代表する魚「ハタハタ」は1970年代半ば頃までたくさん漁獲され、最盛期には2万tも捕れていた。しかし、その後漁獲量は激減し、平成3年にはわずか70tまで落ち込んだが、3年間の禁漁の成果もあって2000tまで復活している。
    • 県魚でもあるハタハタは、2〜4年間を沖合域で過ごした後、11月下旬から12月下旬にかけてごく短期間のうちに深さ250〜300mの深海から接岸し、海藻に卵を産み付ける。これを「ブリコ」という。しかし、藻場の消失により大量の「ブリコ」が海岸に打ち寄せられている。
    • 本校では2009年度から2011年度のまでの3年間、「目指せスペシャリスト(スーパー専門高校)」事業実施校の指定を受け、秋田の県魚「ハタハタ」を材料にスペシャリストの育成を目指して、様々な研究に取り組んだ。
    • 初年度の研究テーマは、①水産物の利用、②「ハタハタ」を利用した新製品の開発、③未利用「ハタハタ」資源の利用、④「漂着ブリコ」の活用(卵の保護)、⑤「ハタハタ」の生産に関する基礎的研究、⑥「ハタハタ」の雌雄判別機の制作であった。3年間、様々な研究が行われ、大きな生が得られた。また、研究をする楽しみを体験することができ、研究活動が現在に引き継がれている。
    • 現在は課題研究の中で、「ハタハタ」の産卵場となる藻場の改善を目指したアカモクの増殖に関する研究や、「ハタハタ」を利用した新製品の開発、缶詰などを製造する過程で生じる魚の内臓などを利用した堆肥の開発、「ハタハタ」雌雄判別機の研究などが引き続き継続されている。
  • 藻場の消失により大量の「ブリコ」が海岸に打ち寄せられているが、これは〝磯焼け〟が原因。この要因を探り、解決に向けた研究を図る。そのため、スキューバで藻場の調査をやっている。
  • 「ハタハタ」は、卵を持ったメスしか食べない。そのため、オス、卵を産んだメスは二束三文。そこで、定置網にかかった雑魚、「ハタハタ」のオスと卵を産んだメスを活用するため、食品化学科で加工・商品化に取り組んでいる。
  • 卒業生のほとんどは就職する。そのため、普通科では簿記とビジネスに関する知識を身につけさせるが、そのとき役に立つのが、食品化学科で加工・商品化した商品をマーケティング管理する実習である。
  • また、加工・商品化した商品の登録商標、パッケージデザインなど、知的財産に関する勉強もやっている。
  • 商品化した商品は、「男鹿めぐみ御前」という弁当、わかめの製造販売、サバの水煮の缶詰、かまぼこなどが主力商品。これらの年間の売り上げは2百数十万円になる。
  • 加工・商品化の技術力向上のため、毎年、6月〜7月の2か月間、民間の水産工場で実習。
  • 2014年度は部活動での活躍が際立った年でもあった。水泳・マリンスポーツ部が「第17回全国水産・海洋高等学校ダイビング技能コンテスト」で5年ぶり2度目の全国優勝を果たした。また、パソ コン部では秋田県高等学校ワープロ競技大会において、商業高校の生徒に混じって第2位になるという快挙を成し遂げた。更に、弓道部で「県民体育大会」で個人優勝や全国大会個人第9位の成績を残した。いずれこれからの活躍が楽しみ。
  • 2013年度に竣工した第二食品製造実習室は、本年3月24日に「HACCP(ハサップ)」対応の工場として認証された。これは秋田県内の高校では 第1号となる認証であり、食品製造過程において最も大切な衛生管理を徹底して学べることになった。そして、実習でも国際的の品質管理の方法を学べるようになった。
  • 69年の歴史をもつ本学は、男鹿を代表する学校であるという自負を持ちながら、近隣の小中学校や男鹿市との連携を深めながら男鹿市民に愛される学校に成長していきたい。そして、部活動や実習製品の販売実習などを通じ、生徒が生き生きと活動できる校風を伝統としたい。

(4) 学校視察
男鹿海洋高等学校02.jpg①ダイビング・プール
 「男鹿海洋高校」の特色は、秋田県の水産界を担う人材の育成を主たる目標としているところにあります。その一つに、ダイビング技能の習得と向上にあります。

 このダイビング技能の習得は、〝海で働ける学生を育てる〟ためのもので、水深10mのダイビングプールは全国有数の規模です。
 このプールで実習する学生たちを見ると、水泳・マリンスポーツ部が「第17回全国水産・海洋高等学校ダイビング技能コンテスト」で5年ぶり2度目の全国優勝を果たしたのもうなずけます。

②食品の開発、加工・製造、販売
 残念ながら、今回の視察では食品の加工・製造の課程を見ることはできませんでした。しかし、お土産に頂いた「かまぼこ」を食してみると、とても美味しく、同校の名物になっているというのもうなずけました。

 これ以外の製品では「サバ水煮缶詰」が好評で、学校祭やイベントなどで販売されますが、販売開始前から行列ができ、販売開始直後には売り切れとなってしまうということです。また、その他の製品では、サンマ、ハタハタ、スルメイカの缶詰、ワカメの佃煮、スモークサーモン、ハタハタ鮨など様々な水産加工品のほかに、小豆の缶詰など農産物の加工も手がけているそうです。

 そして、これらの製品の売り上げは年間2百数十万円にも上るということで、その人気の高さを物語っています。

(5) 「なまはげ太鼓部」練習風景と演奏
 今回、「男鹿海洋高校」の視察でうれしかったのは、「なまはげ太鼓部」の練習風景を見せて頂いたことです。練習といっても、公演のときに羽織る〝なまはげ〟の衣装を身に纏い、本番さながらの演奏と〝なまはげの踊り〟を披露してくれました。

 同校の「なまはげ太鼓部」は、1988年に「生徒達に感動を与え、活力を引き出し、自信をつけさせる。」という目的のもと、同好会としてスタートしたそうです。その後、各種イベントへの参加、福祉施設等へのボランティア演奏などを精力的に行うなど、その活動が県教育委員会や学校側に認められ、1998年度に部活動に昇格し、現在に至っています。

 秋田県の民俗芸能である〝なまはげの踊り〟と和太鼓、そして銅鑼が組み合わさった独特のスタイルで、その実力から、いまでは様々なイベントに引っ張り凧ということです。

 実際、太鼓演奏と〝なまはげの踊り〟を間近で見たのですが、学生の演舞とは思えないほどの迫力であり、加えて鳴り響く銅鑼の音が異様な雰囲気を醸し出し、否が応でも観る者を引き付けてやみません。とても素晴らしい演奏と演舞でした。

 「なまはげ太鼓部」の練習を見せて頂くというのは、私たちに直前まで知らされてなく、まさにサプライズな出来事で、私たちに嬉しいプレゼントでした。学校側のご配慮、「なまはげ太鼓部」の生徒たちに感謝、感謝です。 

 会派として、今後、横笛を送ろうという話になっており、早い時期に届けたいと思います。
 また、「なまはげ太鼓部」以外にも、「マリーンスポーツ部」、「ウエイトリフティング部」などを含め、同校には19の部・同窓会があるそうです。

なまはげ太鼓部01.jpg

なまはげ太鼓部02.jpg

(6)まとめ
 今回の「男鹿海洋高校」の視察は、正直、行くまでは期待度は決して高くありませんでした。ところが、同校の特色ある科目、ユニークな教育方針、独自の商品開発力とマーケティングなどを見るにつけ、子どもたちの自発的な学習意欲、物事に真正面から取り組むという姿勢、そしてなにより、男鹿出身であることに誇りと自信を持つという強い意志を感じました。同校が力を入れている「男鹿学」が、子どもたちによって十分に実践されていることを感じた次第です。

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