Ⅱ.視察報告

3.9月3日:「秋田県教職員組合」

 視察二日目、最初の視察先は「秋田県教職員組合」でした。
 今回、秋田県の学力向上の取り組みについては、初日、秋田市教育委員会にお話を伺いましたが、現場教師の立場から、また労働組合の立場からということで、「秋田県教職員組合」を訪れ、執行部よりお話を聞きました。

秋田県教職員組合01.jpg(1)現地対応者

  • 秋田県教職員組合
    • 執行委員長 山縣 稔 氏
  • 秋田県教職員組合
    • 副執行委員長
  • 秋田県教職員組合
    • 教文部長 小林 久美子 氏


(2) 「秋田県教職員組合」の基本的な考え方
 まずは、山縣執行委員長より、秋田県が進める学力向上の取り組みについて、基本的な考えが述べられました。内容は、以下の通りです。

  • 全国学力・学習状況調査が開始されてから8年が経過しました。秋田県は調査開始以来トップレベルを維持し続けており、国の調査以外にも県独自の調査や学力向上フォーラムを開催するなど学力向上の動きは拡大を続けています。
  • このような学力向上施策に対し、学校現場からは「子どもたちが疲れている」、「子どもとじっくり向き合う時間がない」、「教職員の主体性を尊重してほしい」など切実な声が数多く寄せられています。学校現場の負担は年々増え続けており、教職員の多忙の大きな要因にもなっています。
  • このような状況の改善のためにも先生方一人一人が授業において主体性や創造性が発揮できる環境づくりが何よりも重要だと考え、2012年度より授業実践集を作成しています。「平和・人権・環境」等を題材に、「誰でも、いつでも実践できる」をキーワードに「競争の教育」からの転換を図り、「共生の教育」の実現を目指すための実践集です。

(3) 「秋田県教職員組合」から秋田県の教育事情の説明を受ける。
秋田県教職員組合02.jpg 「秋田県の教育事情について」を小林教文部長からお話を聞きました。概略は、以下の通りです。

  • 秋田県の全国学テ(全国学力テストのこと)に係わる学校現場の状況は、「1位になっても誰も喜ばない。喜んでいるのは県教委だけ」。現場では、今年も全国学テで良い結果が出たという安堵感だけ。それくらい、毎年、学校、現場の教師にはプレッシャーがある。
  • 2015年から「秋田わか杉 7つのはぐくみ」が策定され、れをもとに各学校では実践が求められている。これもまた、大きなプレッシャー。
  • 個別の事業について説明する。
    • 少人数学級推進事業については、小1〜小5、中1〜3、2002年から全国に先駆けて実施されている。
    • 単元テストは、算数・数学、理科などを県教委が作成し、それを教師がHPからダウンロードし、印刷してやらせている。これをやることは、ほぼ強制に近い。
    • 英語コミュニケーション能力育成事業は、英検4級以上を中3全員に受けさせる。これは有無を言わさない。年間数千万円の予算がかかっている。全員、境石的にやらせるので、能力的に厳しい子たちには苦痛になっている。
    • 県学習状況調査というのがあるが、全国学テ対策のための独自テスト。難易度が高い。
    • 秋田県教育庁義務教育課は、「このノートは、県内の小・中学校において、児童生徒の発達を学年をおって系統的・継続的に把握し、社会的・職業的自立の基盤となる能力や態度の育成の一助とする。また、高等学校に進学する県内の小・中学生の全員が、小・中学校9年間で蓄積したキャリアノートを高等学校へ持ち上がることによって、小・中・高等学校を貫くキャリア教育を推進する。」として、わか杉っ子の「キャリアノート」『あきたでドリーム(AKITA de DREAM)』を作成し、県内の各市町村教育委員会及び小・中学生に配付している。これも強制。いずれも、各学校、教師は、これらをやり遂げることに汲々としている。必要なのはツールではなく、人だと思う。したがって、少人数学級推進事業だけは今後も進めてもらいたい。
  • 少人数学級は、子どもたちが発言しやすくなる。教師も子どもたちに接する時間が長くなる。全国学テで上位を維持しようと思えば、この少人数学級は絶対に継続すべき。ただし、教師の配置が非常勤だと、正規の教員に負担がかかる。正規で加配がほしい。
  • 全国学テのトップの要因
    • 子どもが素直でまじめが多い。言われたことを、疑問を持たずに何でもやる。
    • 家庭学習という習慣がついている。しかし、これは画一的、強制的な雰囲気がある。
    • 秋田県では「家庭学習ノート」というものがある。子どもたちはどんな教科を学んでもよいが、自分で何をするかを決め、学んだ結果をノートに記し、親と教師に見せる。このノートには、保護者と担任がコメントを書くようになっているが、教師のコメントが段々長くなっており、これも負担。基本的に、親も、教師もまじめ。
    • 教員は、必ず年に1回、研修授業をやらなければならない。こうした事業が続くことが、段々教師のプレッシャーを生んでいる。自由な風土が薄れ、トップを死守しなければならないという意識になっている。
    • 保護者も、素直で、まじめ。自分がやってきたということもあるが、保護者にも「トップを守るために、親も頑張らなければ」という風になっている。おかしいという声を上げづらくなっている。
  • 「秋田県教育の指針・本県学校教育がめざすもの」について
    • 子どもたちには「苦しさや困難に立ち向かい、打ち勝つ体験を重ねる」としているが、このことが子どもが「苦しいと」声を上げにくくなっている。
    • 教師には「力量を高める」とされ、「ボランティア精神に支えられた豊かな人間性がもとめられる」とされているが、このため超勤は当り前。一日、10時間〜12時間は学校にいる。こうしたことで全国トップが守られている。
  • こうしたことで「秋田の未来は明るい」ものになるのか、大変疑問。
  • 社会の矛盾を、ずべて教育のせいにされている。こうした風潮が強い。

(4) まとめ
 今回、「秋田県教職員組合」から秋田の教育事情について伺いました。前日の「秋田市教育委員会」のお話も大変ためになりましたが、県教組の話もまた、大変参考になりました。

 どのような世界でも、決して良いことばかりあるはずはありません。必ず、表と裏、良い面と悪い面があります。したがって、秋田県の教育の現状についても、両者の話を伺って、全体の骨格がつかめたと思います。

 最後に、県教組から指摘されたのは、学校現場では視察が負担になっているということでした。「現場は、視察がたいへん負担になっている。教育現場が観光地化しているような感じで、とても不愉快。それに、視察の度に学校全体が大変な準備をいなければならず、多忙化の原因になっている。これ以上の視察は受け入れてほしくないという声が各学校、教員、組合員からも上がっている。」というもので、これにはわが会派も大変考えさせられた指摘でした。

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