Ⅲ 視察報告

4.「安川電機インドネシア・ロボットセンター」視察

安川電機01.jpg 7月29日、最初の視察先は、福岡県北九州市に本社がある「安川電機」の関連企業である「安川電機インドネシア・ロボットセンター(RC)」でした。

(1)現地対応者
○社長  片瀬 博治氏(中央)
安川電機02.jpg○副社長 梅村 健介氏(右)
○社員  山田 増丈氏
     高倉 雄一氏

(2) 「安川電機インドネシアRC」の概要
 「安川電機ロボットセンターの」開設は、国内外31カ所目となります。首都ジャカルタ市内のビルの2フロアに設けられ、延べ床面積は1,400㎡で、一階にはデモ用ロボットが稼働しています。
 以下に、「安川電機インドネシアRC」の説明を行います。
安川電機03.jpg
①「インドネシアRC」開設の狙い
 ASEAN地域経済の中核を担うインドネシア共和国は、世界でも類いまれな豊富な天然資源を有し、また世界第4位の人口を擁する事から、今後も中長期に渡り持続的な経済発展・市場の拡大が見込まれることから、現地法人の設置を検討。

 2008年1月に現地法人である「PT. Yaskawa Electric Indonesia」を設立し、以来、現地での生産自動化に貢献すべく事業活動を推進し、現地の生産設備で産業用ロボット「モートマン」を中心とする製品を継続的に採用している。
 インドネシア国市場における販売・サービス体制の充実、顧客開拓、顧客の価値創造の支援をさらに強化するべく、インドネシア市場においてロボットセンターを開設した。

②「インドネシアRC」のコンセプト
 本施設は、顧客にロボット操作教育、保守教育を提供するとともに、「来て・見て・触って」をコンセプトに、顧客に実機を使ったデモやテストを通じて、 ロボットへの理解を深めて頂くことを目的としている。

 現地での自動化ニーズが高い自動車・二輪車・建設機械・食品・医薬品・化粧品等の市場の顧客への各種ロボットソリューションの提案・提供を強化している。

 また、本施設では、ロボットを使った自動化設備の設計・製作を顧客から請け負うシステムインテグレータ(SI)へのロボットに関する最新情報の提供や教育などのサポート体制も強化している。SIルーム・SIラボにて、ロボット実機による 教育を実施し、機能を理解頂き、SI様との関係を強化している。

③施設概要
 「インドネシアRC」は、現地でのアクセスの利便性、ビフォア&アフターサービス充実を図るため、以下のとおり開設している。

  • 稼動開始 :2014年10月13日
  • 所在地  :インドネシア共和国ジャカルタ市内ハリム地区(Secure Building)Secure Building Gedung B, Lantai Dasar & Lantai 1,Jl. Raya Protokol Halim Perdanakusuma,
  • 規模  :延床面積 1,400平方メートル、2フロア
  • URL :https://www.yaskawa.co.jp/newsrelease/news/9022
  • インドネシアRCでは、ロボット製品だけでなく、サーボモータ、サーボパックやインバータなど、安川電機が持つグローバルでトップシェアを持つモーションコントロール製品の展示も行っている。

(3)会社側の説明

  • この会社は、中国、インド、日本で生産したロボットをインドネシアで販売、メンテナンスするための会社。したがって、製造工場はない。販売店、メンテナンス店である。  
  • 2006~07年は、インドネシア経済は絶好調だった。しかし、2008年8月にリーマンショックが起こり、その年の9月以降は海外の仕事が大きく減少した。まさに氷河期であった。    
  • しかし、インドネシア経済全体でみると、自国製造ー自国消費ということで、インドネシア経済の落ち込みはさほどでもなかった。
  • ようやく2009年11月頃から設備投資が始まった。そして、2010年1月からは、溜まったマグマが爆発するかのように、設備投資が始まり、仕事は急増した。
  • 近年、インドネシア国内の製造工場では、省力化、無人化=ロボット化が進んだ。特に、自動車関連産業の設備投資が続いたが、2015年7月以降、そうした設備投資も一巡化し、落ち着いている。
  • 現在、安川製のロボットはインドネシア国内で1800台が稼働している。我が社の年商は約20億円。
  • 2017年に三菱自動車がインドネシアで工場を稼働する。自動車、二輪車とも、これから伸びていく。
  • 旧日本軍の敗戦後、旧オランダ領東インドで、独立を宣言したインドネシア共和国と、これを認めず再植民地化に乗り出したオランダとの間で「インドネシア独立戦争」(1945~49年までの4年5ヶ月にわたる戦争。インドネシアでは80万人が犠牲になった)が勃発。このとき、旧日本軍は武器をインドネシア独立運動側に譲った。それでインドネシアは独立を果たすことが出来た。したがって、インドネシアは親日派。

(4)質疑応答
[バイオロボットの製造についてはどうなっているか?]

  • バイオロボットは、シンガポールが主な市場。医療ロボットについては、シンガポールでは人件費の方が安い。
  • [自動車、二輪車の販売をどのように予測しているか?]
  • ホンダ・カブの値段は10~12万円、日本とさほど値段は変わらない。二輪車は、圧倒的にホンダの人気が高く、販売台数も多い。次にヤマハ、スズキと続く。
  • バイクは4人に1台の割合で、まだ売れる余地がある。製造は800万台に迫る。
  • 自動車に関しては、購入予定者は潜在的な者も入れて、かなりある。自動車メーカー各社は、ローコストカーを販売している。2020年には、自動車の製造は200万台に及ぶと考えている。

[造船業はどうか?]

  • インドネシアの造船業はまだまだだが、これから伸びるだろう。島国で、物流は海上航路が考えられる。

[日本との関税はどうなっているのか?]

  • 日本・インドネシア経済連携協定、いわゆる「JIEPA」によれば、貿易及び投資の自由化及び円滑化、自然人の移動、エネルギー及び鉱物資源、知的財産、ビジネス環境の整備等の幅広い分野での協力等について2国間で締約した協定で、2008年7月1日に発効している。この協定の発効により、物品の貿易に関しては最終的には往復貿易額の92%の関税が撤廃される予定。なお、この協定は、鉄鋼製品の日本からインドネシアへの輸出に関し、特定用途免税制度が設けられている。
  • 日本は、インドネシアと2008年7月に「EPA(経済連携協定:Economic Partnership Agreement)」を締結している。EPAにおける物品貿易において、日本から輸出される産品がインドネシア税関でEPA税率(通常の関税率よりも低い関税率)の適用を受けるためには、輸出産品がEPAに基づく原産資格を満たしていることを証明する「特定原産地証明書」を取得し、輸入国での通関時に税関に提出する必要がある。日本では、「経済連携協定に基づく特定原産地証明書の発給等に関する法律」に基づき、経済産業大臣が指定した発給機関である日本商工会議所が特定原産地証明書を発給している。安川製のロボットもこれにあたる。
  • インドネシアの法律により、株式の99%は「インドネシアRC」で、1%が日本会社が取得する株となっている。そのため、「インドネシアRC」のロボットはネガティブリストに含まれていない。インドネシアの企業と競合しないため、関税が掛からない。

[現地製造工場はつくらないのか?]

  • 現地での製造工場をつくる予定はない。

[安川のロボットの世界シェアは?]

  • ロボットを製造している会社は、世界で4社。ABB(米国)、KUKA(独)、FANUC(日本)、それと安川。2006年以降、販売・製造量ともに安川がトップ。

[ASEANの自動車産業の現況は?]

  • 自動車関連会社はジャカルタに90%が集中し、組み立て工場はインドネシアに集約されている。インドネシアは自動車の組み立て工場といってもいい。

[インドネシアの労働者の教育水準は?]

  • 教育レベルの高い人材はまだまだ少なく、高学歴、優秀な人材は取り合いになっている。テクノクラート以外の労働者はたくさんいるが、優秀な技術、優れた知能を有するテクノクラートは少ない。こうした労働者の人件費は高騰している。

(5)まとめ
 地元・福岡県発祥の企業がインドネシアで奮闘されていることに嬉しさを感じました。

 「安川電機インドネシアRC」は、今後のインドネシア国内、更には「ASEAN」域内の国々の自動車関連産業の飛躍を見込まれ、いち早く産業用ロボットの販売に乗り出されました。

 しかしながら、経営が軌道に乗るにはまだまだ時間がかかるということであり、様々なハードルもあるとのことでした。

 インドネシア国内においても、「ASEAN」域内においても、産業用ロボットの活用はようやく始まったばかりであり、いまは外資系企業に集中しているということです。

 インドネシア国内、「ASEAN」域内においては、豊富な労働力、安い賃金を背景に、まだまだ労働集約型産業が主流です。したがって、これからインドネシアの製造業をはじめとする産業界全体に、いかに産業用ロボットが浸透し、これを購入して頂くか。いかにしてすそ野を広げていくかが今後の課題です。

 そのためにも、インドネシア国内はもとより、「ASEAN」域内の国々(政府)、経営者・産業界全体に日本の産業用ロボットの秀逸性を実感してもらい、購入され、使ってもらうためにも、「インドネシアRC」の経営活動は大変重要になります。

 そのため、建物1階部分には大きなスペースを割いて、ロボットのデモンストレーションが行われています。剪断、溶接、組み立て、梱包など、まずは目で見て、ロボットの凄さ、素晴らしさ、実用性を実感してもらおうというものです。

 私たちも実際に拝見しましたが、いずれも目を見張るロボットの機能であり、安川製ロボットの質の高さを改めて実感しました。

 ただ、残念だったのは、福岡県北九州市の本社工場内にはロボットが太鼓をたたいたり、ロボットがロボットを造る場面などを見ることが出来、誰もが工場見学を楽しめます。また、「JR黒崎駅」北側に「ロボット未来館」がつくられ、会話ロボットなども展示されており、子どもたちの学習の場としても活用され、多くの家族連れでも賑わっています。

 このことを「安川電機インドネシアRC」社長にお聞きしたところ、「ご指摘の点は考えている。近い将来、インドネシアRCにも設置したい」と述べられていました。

 いずれにせよ、海外進出は大変な事業だと思いますが、経営がうまく軌道に乗り、収益が出されるようになることを願いました。

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